代数学

ゼータ関数の構造の解明


松本耕二 先生

愛知工業大学  基礎教育センター(記事公開時は、名古屋大学 理学部 数理学科)

どんなことを研究していますか?

アインシュタインの相対性理論に影響を与えたことで有名なドイツの数学者に、リーマンというドイツの数学者がいます。19世紀を代表する数学者の一人ですが、20世紀になって、彼のそれぞれの研究分野で再評価されるようになりました。彼の名前の残っている数学用語はいくつかありますが、その中にリーマンのゼータ関数があります。ゼータ関数とは、複素関数と呼ばれるタイプの関数で、複素数を変数にとります。ゼータ関数は数学的には整数論のみならず、数理物理など現代物理学に大きな影響を与えています。

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私の専門は整数論です。解析学的な手法を中核に据えて、解析的整数論における重要な研究対象であるゼータ関数の構造の解明を目指しています。整数論は、「整数の性質を知りたい」という素朴な好奇心から出発した分野ですが、今や素粒子論や宇宙の成り立ちにもつながる壮大な理論体系となっています。その研究を通して数理科学の基礎にある新しい原理に到達できればと考えています。もっとも、実社会に影響するのは数百年後かもしれませんが。

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2019年の2月にインド、チェンナイの数学研究所で撮影されたもので、真ん中が、私と共著もあるインドの数学者・A. Sankaranarayanan 氏、右は九大の金子昌信教授です。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→大学、高専、高校
  • ●主な職種は→教員
  • ●業務の特徴は→教育、研究
分野はどう活かされる?

やはり学んだ数学的知識やセンスを生かして、教育職、研究職に就く卒業生が多いようです。

先生から、ひとこと

代数学・整数論は、全数学の中でもおそらく日本がもっとも得意とする分野で、既に歴史に名を残した日本人数学者も多く、今日も世界をリードする人々が(老大家も、若手の俊英も)たくさんいます。世界的な研究センターの一つだと思います。この伝統を次世代にも引き継いでいってもらいたいと思っています。

先生の学部・学科はどんなとこ

純粋科学の研究に十分な意義を認めてくれる大学なので、研究者としてはありがたいです。

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2019年7月のとある懇親会の様子。左から私の大学院生時代の指導教員だった藤井昭雄先生(立教大学名誉教授)、私、私の元学生の鈴木正俊氏(東京工業大学准教授)、その鈴木氏の学生の峰くんです。つまり師弟関係4世代揃い踏みの写真です。

先生の研究に挑戦しよう

初等整数論でしょう。「初等」というのは高度な道具を使わないという意味で、決して「易しい」ということではなく、今も初等整数論を専門に研究している数学者もいるくらいですので(ただ、こればっかりにのめりこむのも良くないと思いますが)。

興味がわいたら~先生おすすめ本

天地明察

冲方丁

4代将軍家綱の治世の江戸時代、碁打ちの名門に生まれた渋川春海が日本独自の暦に挑む物語。数学や、その応用としての天文観測、暦の作成に情熱を傾ける人々の物語がドラマチックに描かれており、江戸時代に日本に高度の数学があったことがわかる。また登場人物の一人である関孝和は、行列式などを考えて代数方程式の理論を建設した人で、日本における代数学の先駆者とも言える。岡田准一主演で映画化もされた。漫画家の槇えびし画でコミック化もしている。 (角川文庫)


素数の音楽 

マーカスデュ・ソートイ

リーマン予想という数学の難題に挑んだドイツの数学者リーマンは、2,3,5,7,11…と続く素数の分布の規則性に関する予想をした。この予想を証明しないまま彼は死去したため、数学上の最大の謎とされてきた。今も未解決である。この本は、リーマンを数学界のワーグナーとなぞらえ、素数が奏でる音楽に挑んだ天才数学者たちと、素数研究の歴史を素人向けにわかりやすく解説している。 (冨永星:訳/新潮文庫)


オイラー入門

W.ダンハム

18世紀に活躍した大数学者レオンハルト・オイラーの様々な業績を平易に解説する。オイラーが重要な貢献をしたテーマから数論、対数、無限級数、解析的数論、複素数、代数、幾何学、組合せ論の8つの章からなる。今も未解決である数学的難題=リーマン予想の核となるゼータ関数は、オイラーが最初に扱った。そのこともあってゼータ関数も詳しく述べられている。 (黒川信重、若山正人、百々谷哲也:訳/丸善出版)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。