第1回 “新宿”なのに、なぜにぎわっていないの? ~1960年代の都市計画
東京都庁をご存知ですか。新宿駅の西側、西新宿の超高層ビル街にあります。新宿駅は1日に約300万の人が乗り降りする巨大な駅なのですが、その西側、西新宿を活性化し、賑わいを生み出そうという活動が始まった、という記事が新聞に載りました(2014年7月8日、日本経済新聞)。このエリアは、“新宿”なのに、なぜ賑わっていないのでしょうか。
超高層ビル街になる前の新宿の西口、西新宿には浄水場があり、その移転に伴い跡地が超高層のビル街につくり替えられました。ちょうど日本が経済的に一番右肩上がりの時代です。
1969年当時の最終的な西新宿=新宿副都心の開発計画図を見てみると、1つ1つの街区(道路と道路で囲まれたところ)が大きいことがわかります。かつ、スペースの使い方がポイントで、大きな公園や広場、歩行者デッキを広く取り、建物は細くしています。このように空間を使うことで、太陽が燦々と地面に降り注ぎ、緑豊かでとても楽しい街、生き生きとしたヒューマンスペースが創造されると、45年前は考えたわけですね。
※出典:勝田三良(監修)・河村茂『新宿街づくり物語―誕生から新都心まで300年』、鹿島出版会、1999年の142頁
ところが、このような空間をつくってみてわかったのは、全く楽しくない、ということです。大きな街区間を移動するためには、横断歩道を渡るしかなく、また、超高層ビルは街区の少し奥まった位置に建てられているため、道沿いには緑地だけで店舗などがありません。歩いても歩いても、緑地があるだけです。
では、こちらの写真を見てください。
同じく東京の神楽坂というエリアです。一見してわかる大きな違いは、沿道の用途とスケールです。通り沿いに小さな建物が所狭しと並び、多様な店舗が入っているので、歩いているといくつかは面白い店に出会える、という楽しみがあります。
対する西新宿では、普段は全く人がいない、ただ空間があるだけです。ものすごく大きくつくれば、開放的で、人々は自由になり、とても楽しい空間になると考えたのですが、実は人間は広い空間をあまりうまく使えないのです。また、広場というのは、そこに面している周りに何があるかというのと合わせて1つの広場を構成しているのです。その意味で、例えば、都庁前広場の周りにあるのは議会棟ですから、一般の人々にとってはアクティビティが何もないのと同じなのです。
人が集まり、賑わう街とはどのようなものか、このような点から、これからの都市づくり、まちづくりを考えたいと思います。
白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか
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