理論経済学

行動経済学:迷いながら意思決定する人間


竹内幹 先生

一橋大学 経済学研究科

どんなことを研究していますか?

人生は選択の連続です。人は迷いながら日々、意思決定をしながら生きています。何時に起きるか、おやつは何を食べるかといった日常的な意思決定もあれば、進学するか就職するか、進学するならどの大学の何学部を受験するのかという、人生における重要な意思決定もあります。こうした選択の積み重ねが人生を形づくっているのです。私は意思決定を分析し、人はどういった損得勘定で行動するのかを研究しています。例えば、利得に関する時間選好の研究があります。人は将来の大きな利得より、目先の小さな利得を好む傾向があります。今すぐに投資するか、将来のために貯蓄するかなど、現在と将来を天秤にかけることを「時間選好」といいます。

人の視線から推定する!意思決定の研究

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将来に得られる利得と、現在のリスクとを天秤にかけてみるという経済実験を行いました。その結果、利得を得るのが先になればなるほど、現在感じるリスクも高まるという、正の相関があることがわかりました。経済的な意思決定には時間選好が介在することが多く、時間選好の本質を理解することは、効果的な経済政策の策定に欠かせません。

新しい研究としては、人の視線を計測し、意思決定をする人の内面を推測しようと試みています。人の意思決定と視線には、密接な関係があります。どこを見ているかを観察することで、その人の意思決定過程を推測することができると考えられます。

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人がどこを見ているかを分析するアイトラッキング

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→金融、メーカー、コンサルタント、ベンチャー企業
分野はどう活かされる?

ゼミの卒業生からは、金融政策や景気動向の分析、ビジネスデータの統計解析などで、理論経済学で学んだことが直接活きていると聞いています。さらに、経済学の特色でもある「制約つきの最適化問題」の考え方が、ビジネスシーンで役立ちます。複雑に絡み合う多くの要素を1つの数式に織り込んでいく理論経済学の思考方法が、日々の状況判断や戦略立案の基盤になっている実感があるそうです。課題解決にあたって、組織の意思決定や取引相手(クライアントさん)の意思決定などを複合的にとらえる必要がある時には、理論経済学で使う思考方法が頼りになります。

学問に触れることの価値は、すぐに役立つスキルを学ぶということよりも、思考方法を鍛えたり、教養として学問を身につけたりすることにもあります。そういう意味で、経済学らしい思考方法が課題解決の助けになることも多いと思います。

先生から、ひとこと

10代の頃は、自分の人生を形づくる大事な出会いがたくさんあると思います。しかも、あとから振り返ってみて初めて、「あの体験があるから今の自分がここにいるんだ」と実感するような出会いが待っているでしょう。一日一日を大事に生きて、そうした大切な出会いや体験をしっかり受けとめていってください。重要な選択を迫られる10代かもしれませんが、人生一度きりなので「最適な意思決定」などは存在しません。迷うことも多いけれど、あなたがあなた自身でいることが何よりも大事だと信じてほしいです。

先生の学部・学科はどんなとこ

一橋大学は、日本で最も伝統のある社会科学系研究大学として、常に学界をリードしてきた長い歴史と実績があり、人文科学を含む広い分野で新しい問題領域にチャレンジする豊富な教授陣にも恵まれています。

特徴としては、商学部、経済学部、法学部、社会学部の間の垣根が低いことも挙げられます。例えば、所属学部にかかわらず他学部科目も履修することができます。教育上の最大の特長は、ゼミナールを核とする少数精鋭教育です。一橋大学のゼミナール制度は、100年以上の歴史があり、必修であることと、また、平均10名未満の少人数で行われていることが特長です。

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ゲームでリスク回避度など経済学の基礎を学びます

先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】
・市場を可視化してみよう
経済学の基本は、市場における需要と供給です。それを考えるヒントとなる図を作ってみましょう。「東京都中央卸売市場―市場統計情報(月報・年報)」のウェブサイトから「品目別検索」でデータを得ます。まず、野菜を1種類選んで、その毎月の「数量」を横軸に、「平均価格」を縦軸にとって「散布図」を作ってみましょう(できれば過去数年分まとめて作図します)。数量と価格の関係について、何か見えてくるでしょうか。その関係は、野菜の種類によってどのくらい違うのでしょうか。

・実験ゲーム理論「変則じゃんけん」
勝ちが1点、あいこが0点、負けがマイナス1点と点数がつくのを通常のじゃんけんとすると、変則じゃんけんとは、その点数を変えてみたものです。例えば「グーで勝ったら勝ち点2倍」とルールを変更して、変則じゃんけんを実際に10回繰り返して対戦してみましょう。グー・チョキ・パーは、それぞれどのような頻度で出されたでしょうか。

グーをたくさん出せば良いというものではありません、それを読まれて相手はパーをたくさん出してくるでしょうから。その上で、相手にスキを見せない“最適な” グー・チョキ・パーの比率の計算にチャレンジしてみませんか(ヒント:グーを出す確率をP、チョキを出す確率をQ、パーの確率を1-P-Qとおいて、相手にスキを見せず、かつ相手の得点の期待値を最小化するようなPとQを計算します)。

興味がわいたら~先生おすすめ本

その数学が戦略を決める

イアン・エアーズ

病気の診断やヒットする映画の台本づくりなどにも、大量のデータを用いた統計分析が活かされています。それらの事例を通じ、データ分析の重要性や可能性を論じている本です。この本を通じ、感覚ではなく、論理でものごとを決める重要性を理解してほしいと思います。 (山形浩生:訳/文春文庫)


予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

ダン・アリエリー

心理学者による「行動経済学」のベストセラー。合理的にものごとを決めることの重要性を理解した人ですら、合理的な決定を押し通すことは難しいです。人は非合理的に行動することも多く、その理由や予測についての解明をこの本がしてくれます。 (熊谷淳子:訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


行動経済学の逆襲

リチャード・セイラー

経済学者による「行動経済学」のベストセラー。すべてを合理的に判断できることを前提にしてきたのが経済学。それに対して、誤りをしがちで感情で生きる人間像を統合させたのが行動経済学です。著者のセイラ―教授は、学会で異端視されつつも行動経済学を打ち立てて、ついにはノーベル経済学賞を受賞しました。豊富な事例で行動経済学を学びつつ、学問の発展を追体験できる面白い本です。 (遠藤真美:訳/早川書房)


自由論

ジョン・スチュアート・ミル

イギリスの思想家である著者の代表的著作。個人の自由と、その不可侵性について論じています。周囲と自分の違いに悩むときや、周囲から有形無形の圧力を感じたり、集団のなかで息苦しさを覚えたりするときに、道標となってくれるような、重要な近代思想を教えてくれる本です。 (斉藤悦則:訳/光文社古典新訳文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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