民俗学の基本は「声なきものの声を聞く」ことです。誰もが自己の存在を語ることができると思われている現在、その中で誰の声が相対的に「小さい声」となっているのか、メディアにのりにくいのか、そのような声をどんな方法で聴くことが可能なのかということを考えています。
最近は、現在はあまり知られていない民間宗教者の存在に光を当てる研究をしています。地方にはかつて、大きな教団や教義を持たずに、特定の地域だけで信じられていた庶民信仰が多く存在していました。それが地域の中でどのような役割を果たし、どう伝承されていったのかを明らかにしたいと思っています。それと同時に、どのような人々の歴史や経験が忘れられようとしているのかということを、問いたいと考えています。
震災後に出版された民俗学者の本が問うものとは
民俗学者の山口弥一郎は、昭和8年の三陸大津波で被災した村を歩き、人々の話を聞き、『津浪と村』という本を出版します。この本は、気仙沼に住む民俗学者・川島秀一さんと東京に住む国文学者石井正巳さんによって、東日本大震災のわずか6か月後に復刊されました。
山口はこの本の中で、「高台に移住した被災者たちがやがてもとの場所に戻ってきたのはなぜか」と問いかけます。この問いには、物事を短いタイムスパンで解決しようとするのではなく、長い歴史を踏まえ、人々の日常から考えなければいけないという民俗学の重要な姿勢が表れています。震災後に行政が打ち出した高台移住のような政策は根本的な解決ではないということも教えてくれます。その時々の主流ではなく、もう一つの別の道を示すことが民俗学の存在意義だと考えています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→公務員や一般企業など
- ●主な職種は→文化振興課、文化財保護課(公務員)、観光業など
- ●業務の特徴は→地域の人々と日常的に接し、文化的な支援をする仕事
分野はどう活かされる?
地方に住む人々の日常の生活への関心と理解が深いため、地域の人々に接したり、地域に何かを提案したりする仕事に活かされていると思います。観光関係の職種で、企画を担当している者もいます。新聞記者になった卒業生からは、民俗調査の経験と照し合せて、「聞きたいことだけを都合よく聞く」取材の仕方に違和感を覚えると聞きました。この場合は、自身の職業を対象化したり省みたりするときに、学んだことが役に立っていると言えます。
民俗学は、フィールドワークを経験することで、本を読むことだけでは得られない視野が拓かれることが特色です。本を読んでフィールドに行き「書かれたこと」を相対化すると同時に、本から新しい視点を得てフィールドに向かう。この往復運動が醍醐味です。新しい本を読んでまたフィールドに出るとフィールドの風景が違って見えるという学生も多いです。
民俗学は地域で研究会を持っていることも多く、本学の学生も青森県民俗の会や東北民俗の会などで発表しています。社会人である会の人と議論したり批判を受けたりすることで、自分たちの研究の可能性や有効性を知ります。一般の方々も、学生の研究に興味や関心を示してくれます。地域の人々からいろいろなことを教わり、報告書を作成して調査地に返すという経験を積むことで、「書くことの責任」「社会とのつながり」「書かれたものの力」を知ることができます。
文化資源学コースでは、民俗学の他に文学や言語学、思想史、考古学、美術史、文化財科学、博物館学など幅広いジャンルを「文化資源」として学ぶことができます。本コースは実習科目が充実しており、「現場」で実践的な知識を身につけることができます。調査報告書を刊行するなど、学びの成果を積極的に発信していることも特徴の一つです。