リハビリテーション科学・福祉工学

ヒトの皮膚感覚機能を“見える化”するための研究


村田潤 先生

長崎大学 医学部 保健学科 作業療法学専攻/医歯薬学総合研究科 保健学専攻

どんなことを研究していますか?

日本人の平均寿命は男性が80歳、女性が87歳まで伸びてきています。一方で、介護を必要とせず、自立した日常生活を送れる期間を表す健康寿命は男性が71歳で、女性が74歳。男性で約9年、女性で約13年の差があります。つまり、この差は人生における介護を必要とする期間を意味しています。この介護は、高齢者で好発する外傷や疾病にともなう機能障害が原因で必要となります。

リハビリテーション科学・福祉工学という分野では、この機能障害に関連する研究だけでなく、健康寿命を延伸する健康増進などの予防医学に関する課題追究など幅広く取り組んでいます。

皮膚血流反応を用いた皮膚感覚力評価システムの開発

私の研究室では、新しい皮膚感覚機能の評価法の開発に取り組んでいます。ヒトの感覚機能は、運動・動作能力と極めて密接な関係があり、リハビリテーションにおいて重要視されています。一方、感覚の中でも、視覚や聴覚の能力は数値で評価することができますが、皮膚感覚の評価は「強く感じる」か「あまり感じない」などの患者の主観に頼るしかありません。

私たちは、感覚を識別する時に生じる皮膚血流反応との関連性を調査し、数値で表せる新しい皮膚感覚力評価システムを構築したいと考えています。この評価システムが利用可能になれば、感覚障害の診断だけでなく、治療効果の判定など感覚機能のリハビリテーションにおける技術進展が期待されます。

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ヨーロッパスポーツ科学会議での研究発表

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→医療
  • ●主な職種は→作業療法士
  • ●業務の特徴は→生活障害のある方、あるいは将来的に障害を有する可能性のある方に対するリハビリテーションやヘルスプロモーション活動
分野はどう活かされる?

作業療法はリハビリテーション科学・福祉工学を基盤とする医療職ですので、ここで学ぶ知識や経験は医療現場での技術向上に反映すると考えます。さらに、患者さんの抱える問題に寄り添い適切な医療を提供するためには、より高度な問題解決能力と判断力が求められます。ゼミの研究活動で育まれた探究心と分析力は、医療職としての資質向上に貢献するものと考えています。

先生から、ひとこと

我が国では急速に高齢化社会が進んでいますが、単に長生きするのではなく、充実した人生を送ることに意味があるのだと思います。「健康」は充実した人生を支える大きな柱となることでしょう。一方で、「健康」を維持・再獲得するためには、科学的知識や理論の構築、新しい治療法や医療機器等を進歩・発展させていく必要があります。リハビリテーション科学・福祉工学の分野に課せられる使命はとても大きいと言えます。より多くの人の努力が重なれば、少しでも早く理想に近づくことができるかもしれません。皆さんの参画を期待しています。

先生の学部・学科はどんなとこ

多様化する障害に対処するためには、リハビリテーション医療に関連する各職種の専門性を追究するだけでなく、それぞれの専門職がチームを組んで連携してアプローチする必要があります。

私が所属している長崎大学は、チームアプローチを重視した教育プログラムを有し、保健学(理学療法学・作業療法学・看護学)の他、医学、歯学、薬学の学生が共に協力して問題解決に取り組む共修科目があります。教育課程の段階から、医療・保健・福祉の連携・協働に向けてパートナーシップやリーダーシップを発揮できる人材の育成を推進しています。

先生の研究に挑戦しよう

手の皮膚感覚は手指の精巧な運動操作能力に大きく影響します。例えば、プラモデルの工作を行うという課題に対して、指腹の部分にだけセロハンテープを張り付けて場合と張り付けずに行う場合で作業遂行時間にどれくらいの差が生じるでしょうか。その時間差の原因の一つとして、セロハンテープによる指先の感覚入力減弱が考えられます。また、この影響は作業内容によっても異なるはずです。どのような作業が影響を受けやすいのでしょうか。その特徴について調査してみてはいかがでしょう。

次に、もう一つのテーマを紹介します。外傷や疾病により身体機能に障害が残ってしまった場合、日常生活などの様々な場面において介護が必要となります。例えば、麻痺などの影響で足まで手が届かない人が、誰にも頼らず容易に靴下を履けるようにするために、どのような工夫をすればよいでしょうか。障害があっても自立して行えるような便利な道具を考案してみてはいかがでしょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

かぎりなくやさしい花々

星野富弘

事故により脊髄を損傷した著者は、両手両足を動かすことができない状態になってしまった。このような喪失体験から様々な葛藤を経て、唯一動かせる口を使って文字を書いたり、絵を描いたりする技術を獲得し、それが著者の生きる希望となる。この著者の体験を綴った手記を通じ、障害とは何か、また、障害に向き合って生活していくためにはどうしたらよいのか、などを考えることとなるだろう。 (偕成社文庫)


この子を残して

永井隆

長崎市に投下された原子爆弾によって自らも被爆しながら、負傷者の救護活動にあたっていた長崎医大の医師永井隆先生が、我が子のために書きのこした作品。子を想う親の愛情、人への優しさを学び育むことができるだろう。 (アルバ文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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