遺伝育種科学

イネの種子に注目!イネの収穫量を増大させる遺伝子を探る


岩崎行玄 先生

福井県立大学 生物資源学部 生物資源学科 分子生物学研究領域/生物資源学研究科 生物資源学専攻

どんなことを研究していますか?

豊かな穀物生産を可能にするためには、個々の品種の特徴を詳しく評価する必要があります。高温に強いのか、低温に強いのか、病害虫に抵抗性があるのか、肥料の吸収力が強いのか、その作物の背は高いまたは低いのか、収量が多いのか、塩分が多い地域でも育つ種なのかなどなど、様々な品種が有する形質を評価します。

さらに、形質を支配する遺伝子を同定し、特定された遺伝子を上手に用いて、次世代に向けた新しい品種を、従来の交配育種と遺伝子工学的な手法を同時並行で実施します。これらの一連の取り組みをする学問を、遺伝育種科学といいます。

ある遺伝子の一部が欠失すると種子が大きくなる

私が対象とするのは、イネです。研究のスタートは、イネで重要と考えられる、あるタンパク質を生み出す遺伝子の同定でした。この遺伝子の単離、大腸菌を用いてタンパク質の合成など、様々な方法で機能を明らかにしてきました。さらに研究を展開していくと、このたんぱく質の中で、細胞数の減少にかかわりイネの背丈を半分にしてしまう、ある遺伝子欠失した変異体を見つけました。

また、多様な種子形を示すイネ品種を収集し、個々の特色ある種子形を規定する遺伝子の探索を進めています。ある遺伝子の一部が欠失すると種子が大きくなり、別の遺伝子の一部が欠失すると種子の数が多くなります。これらを組み合わせると、種子が大きく、種子数の多い、つまり収穫量の多いイネの開発が期待できます。収量を増やすことは、人類に貢献するミッションだと思い、そうした遺伝子の解明を進めています。

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イネの主要な組織のタンパク質を、質量分析するための準備をしているところ

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→食品系、化学系、製薬系
  • ●主な職種は→開発職
  • ●業務の特徴は→多様な開発職
分野はどう活かされる?

研究室は、植物を実験材料にしています。遺伝学、育種学を取り入れた研究を進めていますが、研究室の基本を生化学においていますので、卒業生は、化学系でいうところの「多様な分析」が十分にできます。私も農芸化学出身なので、卒業生が、狭義の専門性よりは、広義の「化学系学生」として活躍しているので、安心しています。

先生から、ひとこと

新しいものに挑戦するとき、対象を深く考えるためには、どうしても、母国語が重要と思います。一方、理科系のお仕事は、地球規模で行われます。よって、指導者(先生や上司)がフランス人、同僚がアメリカ人、ブラジル人など、多彩な人種構成になったとしても、全くおかしくはないので、コミュニケーションや成果報告は英語であろうと思います。このため、英語は道具として必須という覚悟、思索は母国語の力が重要であるという認識を大切に、新しい時代を切り開いてください。

先生の学部・学科はどんなとこ

福井県立大学生物資源学部は、化学、食品化学、生化学、分子生物学などを含む生物資源学科と、育種、遺伝、花き、園芸などを含む創造農学科があります。持続可能な社会を考えていくとき、化学系と生物系は、両輪です。両学科の共通講義を聞き、両学科の教員と議論することで、勉学の視野を広げることができます。

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あわら開発研究センター圃場。毎年、数万本、圃場で、多様なイネ品種を成育しています。播種、田植え、多様な生活環での組織・器官の調査をします。

先生の研究に挑戦しよう

多様なイネを交配して、後代を調べてみてください。細胞の数が増えることで種子が大きくなった品種と、細胞の長さが長くなることで種子が大きくなった品種を掛け合わすと、相乗効果でもっと大きくなることが期待できます。

興味がわいたら~先生おすすめ本

ひとりでは生きられないのも芸のうち

内田樹

著者は哲学研究者にして、人気コラムニスト、思想家、倫理学者、翻訳家、合気道家。専門はフランス現代思想だが、取り上げるテーマは政治、宗教から映画論、武道論まで幅広い。非婚・少子化・大不況の厳しい今の時代に「ひとりでは生きられないのも芸のうち」と人のために生きることを説く。人間はひとりでは生きられないとは、当たり前のことだが、意味は深い。 (文春文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。