複合材料・表界面工学

チョウのふしぎな発色に学び、光材料を作る


齋藤彰 先生

大阪大学 工学部 応用自然科学科 物理工学科目/工学研究科 物理学系専攻 精密工学コース

どんなことを研究していますか?

主に南米に生息する大型のチョウに、「生きた宝石」と呼ばれる美しい種がいます。モルフォチョウと言い、青色の金属光沢が印象的です。世の中にある色の大半は色素で発色しますが、本種には青い色素がありません。翅の表面の微細構造に光が反射する時、特定の光が強め合う「干渉」が起こり、青く光って見えるのです(シャボン玉やDVD裏面の虹色と同じ)。このような微細構造による発色を、構造色といいます。

表面のナノ構造が青色のひみつ

私は生物模倣工学(バイオミメティクス)を専門にしますが、私の場合、ベースとなるのは、表面科学、応用光学などです。研究テーマの1つは、チョウのふしぎな発色に学び、高効率で安全な色あせない光輝材料を作ることです。

モルフォチョウの青い金属光沢は、光干渉なのに虹色には見えません。どこから見ても青色です。そのひみつは、翅の表面の特殊なナノ構造にあります。これをうまく利用すると、バックライトが不要な、電力消費の少ないディスプレイや、新たな化粧品・塗装・看板などができます。構造による色なので永久に色あせがなく、色素不用なので安全で環境負荷も低い利点があります。

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モルフォチョウの標本と、研究についてまとめたものを手に

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→機械、電気、分析、光学、情報など。メーカーがほとんど
  • ●主な職種は→開発、研究、設計、分析など
分野はどう活かされる?

開発、研究、設計、分析が主です。大学の専門分野を直接、活かしているケースは正直、少数ですし、期待しない方が良いでしょう(そもそも、大学と社会人が直線的につながっても、広がりがなく面白くないです)。むしろ、大学では身近な問題解決(それどころか、問題探し)を、より一般的なケースに敷衍して、あらゆることに応用できる「柔軟な」「頭の使い方」が身につくよう意識しています。そうすればどんな所でも対応できますし、世の中の役に立ちます。

先生から、ひとこと

「わかる」ことは「楽しい」。「知る」のは快楽だ。そして自然は「美」に満ちている。それを追求して叱られもせず、まして人の役に立てれば最高だ。しかしそう簡単には秘密は覗けないし、甘くはない。自然はしばしば残酷でもある。でも、それが人生だ。それで良いではないか。

先生の学部・学科はどんなとこ

本専攻・コースでは、分析からものづくりまで、幅広いテーマで挑戦できます。主な手法は物理系ですが、対象や道具は生物・化学・情報など様々な分野にわたります。そして人々に役立つ工学の観点があります(が、純粋な「学問の面白さ」が第一です)。

先生の研究に挑戦しよう

高校生レベルと限定せず、背伸びして、どんどん大学の本も、また分野によらず、読むことが大事です。要は「好きなことを深める」。その前提で、生物・物理・化学とこだわらず、周囲の生物機能で興味を持てそうな対象について、深く考え、そしてできれば簡単な道具で確かめてみると良いでしょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

ヤモリの指から不思議なテープ

松田素子、江口絵理、石田秀輝、西澤真樹子

生物模倣工学(バイオミメティクス)について、豊富な具体例が掲載。「ハスすごい!…まさかの超撥水」「蚊すごい!…痛くない注射針」「カタツムリすごい!…汚れないタイル」など。複合材料・表界面工学の学問領域に関係する事例も。それらの多数の例をどのように帰納して一般論として理解に役立てるか、読んで試してみてほしい。 (アリス館)


すごいぞ!身のまわりの表面科学 ツルツル、ピカピカ、ザラザラの不思議

日本表面科学会:編

「サメ肌の水着はなぜ速く泳げるか」「髪の毛の直毛とくせ毛は何が違うのか」など、身近な「表面」について、ありとあらゆる視点から様々な研究者たちが解説する。表面とはなぜ存在し、実体は何なのか。表と裏の境界は? さまざま湧き出る疑問に一つ一つ事例を用いて答えていく。 (ブルーバックス)


涼しい脳味噌

養老孟司

解剖学者としてあまりにも世に有名な著者が、幅広い知識と繊細な学問思考で、鋭くそして軽やかに社会と科学を語る。「ゴキブリ殺しの文化論」「手塚治虫の生命観」といった、多種多様な50以上のテーマについて独特の語り口で一気に引き込み読ませる、痛快なエッセイ集。 (文藝春秋)


寺田寅彦随筆集

寺田寅彦

戦前の物理学者であり、随筆家、俳人でもあった寺田寅彦による随筆集。寺田は科学と文学を調和させた、稀有な随筆の名手である。学問に携わる者は、様々な分野を融合させつつ、発展したり興味を深化させ、知性を磨くことが重要だ。いわゆる「タコツボ化」していてはならないと感じさせてくれる。 (岩波文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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