パソコンやスマートフォンの中では、ケイ素(Si)の単結晶でできた半導体が休むことなく動き続けています。固体の中でも単結晶は、優れた機能を発揮します。単結晶を育成する手法のひとつがフラックス法です。
フラックスとは、他の物質(溶質)を溶かす「溶媒」のことです。フラックス法は、溶液法の一種であり、目的物質の高品質な単結晶をそれ自体の融点よりもはるかに低い温度で作る技術です。溶液の過飽和度を制御して単結晶を育成するきわめて単純な結晶育成技術です。しかし、結晶育成原理がとても単純なため、そのぶん奥が深い単結晶育成プロセスなのです。
フラックス法で作った単結晶材料が世界の水・エネルギー問題を救う
複合材料・表界面工学の分野の中で、私は結晶材料を専門に研究しています。具体的には、フラックス結晶化学を活用して、最先端の浄水デバイスや蓄電デバイスの研究開発にチカラを注いでいます。
浄水デバイスでは、「水をキレイにする化学」に挑み、世界中の人々に安心・安全な飲料水を届けることを目指しています。蓄電デバイスでは、現在のリチウムイオン電池を上回る性能と安全性を実現する「全固体電池」の実現を目指しています。
例えば、水中に含まれる様々な有害物質を除去できる浄水器や、海水を淡水化する浄水器、また、東京-博多間を1回の充電で走ることができるバッテリー、非接触で高速充電できて生体内でも安全に動作するバッテリーなどを、製品としてイメージしてもらえればよいです。クリスタルサイエンス・マテリアルイノベーションの観点から、環境調和社会に貢献できると信じています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→セラミックス・結晶分野、自動車・電装分野、水処理・化学品分野など
- ●主な職種は→研究職、技術職
- ●業務の特徴は→材料設計・合成・評価、デバイス設計・作製など
分野はどう活かされる?
新規浄水デバイス、次世代・次々世代蓄電デバイス、環境浄化デバイス、自動車・航空・宇宙関連デバイスなどに応用できる、新規材料の設計から製品化まで、材料に関わる幅広い研究開発に従事しています。
単結晶は原子や分子が規則正しく並んだ物質です。その並び方をコントロールすることでまったく新しい機能を生み出したり、これまでの性能を各段に向上できたりします。結晶材料には無限の可能性が詰まっています。原子・分子という我々の眼では直接見ることができない(最先端装置ではできますが)世界で、自身のチカラの可能性にチャレンジしてください。
信州大学物質化学科あるいは先鋭材料研究所では、無機材料の創成から環境・エネルギーデバイス応用まで、幅広く研究・教育を展開しています。特に、先進材料工学のコースを設け、材料・表界面デザインや複合化などの研究・教育が実現できる体制となっています。
興味がわいたら~先生おすすめ本
超最先端×高校生 信大のケンキュウがおもしろすぎる! 第5回環境・エネルギー材料科学研究所編
動画「超最先端×高校生 信大のケンキュウがおもしろすぎる!」の第5回。信州大学先鋭領域融合研究群環境・エネルギー材料科学研究所の取り組みを紹介している。特に、蓄電池部門・フラックス法に注目し紹介されており、フラックス結晶育成を概説している。視覚的にわかりやすく、次世代バッテリー研究開発も取り上げている。
(SBC信越放送 信州大学手嶋勝弥:出演)
動画サイトへ
信州のファーストペンギン 夢を拓くイノベーターたち 第6回 SDGs解決に挑む信大クリスタル
動画「信州のファーストペンギン 夢を拓くイノベーターたち」の第6回。信州大学先鋭材料研究所手嶋・是津研究室の取り組みを紹介している。特に、フラックス法で育成した結晶材料によるSDGs解決への取り組みを概説している。国内では、フラックス育成結晶を搭載した浄水器が製品化され、海外ではアフリカの水問題に挑戦する様子を視覚的にわかりやすく取り上げている。