構造工学・地震工学・維持管理工学

超音波、赤外線、電磁誘導を使った非破壊検査で、橋梁の劣化を探し出せ!


白旗弘実 先生

東京都市大学 建築都市デザイン学部 都市工学科/総合理工学研究科 建築・都市専攻

どんなことを研究していますか?

1960年から70年代の高度経済成長期に、道路、橋梁など公共の構造物など、多くの社会資本が建設されました。現在、これらの多くが劣化する時期にきています。

私の研究室では、鋼材で作られた橋梁(鋼橋)の劣化を検出することを研究しています。鉄鋼は繰り返し荷重がかかると、疲労き裂が発生、進展し、最終的には破壊してしまう可能性があります。また、さび(腐食)も大敵です。そうした腐食や疲労き裂を研究対象としています。

建物は壊して中を検査することができませんし、検査するときには交通を止めるなどの社会的影響をなるべく及ぼさないよう、配慮する必要があります。そこで非破壊検査が重要となります。

疲労き裂を見逃さない

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私たちは、非破壊検査の中でも超音波、赤外線、電磁誘導を使った手法を研究しています。き裂を見逃さないことが重要なことは言うまでありませんが、精度よくき裂の長さを評価することは今後の補修方法の検討にも役立ちます。これが、適切な箇所を補修することにつながり、コストの節約や環境負荷の低減にもなります。なにより、安心して鉄道やバスに乗れることや、安心してガスや水が使える上で、大きな役割を担っています。

2000年代半ばからAIやデータサイエンスブームが起こっていますが、この分野も例外ではありません。ただ、機械学習における学習データの蓄積が、他の分野と比べて難しいのではと感じています。構造物の損傷箇所を角度や光量などの条件を同じにして写真に撮るのは難しいからです。損傷と思われる箇所の抽出はずいぶん可能になると思いますが、その後の処置については人の判断もまだ必要と思います。

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授業の実験の風景です。鋼材を引っ張っています。

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→総合建設業、運輸、公務員
  • ●主な職種は→設計、施工、メンテナンス、公務員
  • ●業務の特徴は→橋梁の設計から維持管理まで
分野はどう活かされる?

橋梁の設計、橋梁の工場製作、橋梁の現場施工、構造物の検査、建設現場施工管理、技術開発などの仕事で分野が活きています。

先生から、ひとこと

大学で研究することも、原理は高校で学ぶ物理や化学が基本となっている場合が多いです。例えば、音波の入射はスネルの法則に従いますし、電流センサの中にはアンペールの法則を利用しているものがあります。実際はもう少し複雑ですが、構造物の周期も単振動で習うことが基本です。現象を記述する微分・積分ももちろん重要です。データサイエンスと関連して統計の知識も重要になってきています。高校で学ぶどの科目も社会の役に立ちます。役に立つというよりも役立てるという意識が大切でしょう。

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検査の一コマです。溶接部の検査です。

先生の研究に挑戦しよう

・赤外線画像の処理による橋梁の漏水・滞水箇所の検出
・橋梁に飛来する塩分量の測定
・橋梁のさび評価の画像処理による自動化
・波形処理による亀裂エコーの抽出と亀裂の画像化
・マイクロコンピュータを用いた省電力型のデータ収録装置の開発と実証試験
大学の研究も原理は高校の物理で学ぶものが多いです。プログラムが作れると、選択の幅は広がるでしょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

インフラ事故 笹子だけではない老朽化の災禍

日経コンストラクション:編

1960~1970年代にたくさんの構造物が建設されたが、40~50年が経過、笹子トンネル事故等をきっかけに、社会資本(公共構造物)の劣化がクローズアップされている。しかし、社会資本の多くの維持管理は税金で賄われ、人口減少や地域計画・街づくりとの兼ね合いもあり、すぐに補修できるような状況ではない。これからは、更新・補修・廃棄も含めて計画的に構造物を使っていくことが求められることがわかる。日経の土木専門誌で使われた写真がふんだんに載っており、一般向け書籍ではあるものの、専門的にも読むことができる。 (日経BP社)


山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた

山中伸弥、緑慎也

2012年のノーベル賞を受賞した山中伸弥教授のこれまでの人生が描かれている。アメリカで「研究開発にはビジョンが大切」ということを学んだり、ノーベル賞受賞のきっかけとなったips化する遺伝子を見つけた過程などを、特に読んでほしい。非常に読みやすい。 (講談社プラスα文庫)


私のロマンと科学

西澤潤一

東北大学総長、首都大東京学長を歴任した電子工学の研究者、西澤潤一の本。「定説を鵜呑みにするな」「自分で実験して確かめよ」「(教科書にはない奇妙な)現象を大切にせよ」など、工学部を目指す人にとっては大切なことが書かれている。 (中公新書)


レジリエンス・ジャパン 日本強靭化構想

藤井聡

内閣官房参与である、京都大学藤井聡教授の著書。アベノミクスと呼ばれる安倍政権の経済政策の考え方を解説している。政治色も感じられるが、防災や老朽化する社会資本の問題を知る点ではわかりやすい。 (飛鳥新社)


戦略的イノベーション創造プログラム

内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のホームページ。府省の枠組みを越えて科学技術のイノベーションを推進していこうというプログラム。国が重点を置く、インフラ、エネルギー、防災などへの取り組みや、これまでにされてきた研究開発がわかる。 (国立研究開発法人 科学技術振興機構)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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