私たちのまわりには様々な摩訶不思議な現象があふれています。例えば、シマウマの縞模様はどのようにしてできるのか。なぜキリンやヒョウは縞模様ではないのか。あるいは砂漠の風紋はどうしてできるのか。模様がひとりでに形成されることを、パターン形成と言います。
パターン形成は生物の表面の模様だけでなく、バクテリア集団が作り出すコロニー、化学反応が作り出す動的な模様、温かいみそ汁に見られる対流、乾いた地面に現れるひび割れなど、多岐にわたります。さらに生物の発生において、器官などが形作られていく形態形成も、パターン形成の一つであると言えます。
応用数学のなかで私の学問領域は、近年「現象数理学」と呼ばれている分野になります。パターン形成の面白いところは、何者かによってパターンを作れと命令されているわけではなく、自発的に美しく規則正しいパターンが形成されていくところです。これを自己組織化と言います。
私の研究は、自然界に現れる自己組織的パターンが形成される仕組みを、数学を用いて明らかにすることです。まず、対象となる現象を数学の言葉、つまり数式として表さなければなりません。これをモデリングといいます。その方程式をコンピュータなどで解くことによって、現象が生じる仕組みを解明していきます。
下位層と上位層を数学でつないで、全体を理解する
私は現象が持っている階層構造に興味があります。例えば、脳の一つ一つの神経細胞のふるまいは非常によくわかっていますが、そのような神経細胞が集団として集まった脳が、記憶することができたり、考えることができたりするのはなぜかについては、まったくわかっていません。多くの現象で、個々の下位層では単純なふるまいをしていますが、集団である上位層には、下位層にはない複雑なふるまいが見られます。このような「下位層の個々のふるまいから上位層の現象・機能がどのように生じるか」という問題は、多くの学問分野に共通の疑問であろうと思います。
経済もその一つだと思います。個人の株の売買行動の影響が、全体としての株価の変動にどう現れるのかわかっていません。わかっていないからこそ、時として株価の急落によって経済が混乱したりするわけです。このような下位層と上位層を、数学を用いてつなぐことができれば、一つ一つの細胞の動きとそれが集まった時の集団としての器官や組織の形成や、経済、脳など、様々な分野に貢献することができると考えています。
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私と同じ分野で研究をしている先生がいるので、共同研究を進めています。
魚や鳥が群れをなしながら集団で移動している様子を、実際に見たことがあるかと思います。その群れにリーダーがいるわけではないということは、すでにわかっています。指示役のリーダーがいないにもかかわらず、集団を形成することができるのはなぜかという疑問を出発点として、個々の個体にどのようなルールがあれば、全体として集団を形成できるのかを考えてみるのが良いかと思います。
また、木の枝のつき方を考えるのも面白いと思います。木の種類によって、成長過程で枝の付き方は様々です。上に伸びようとする木もあれば、光を集めるために枝を全体に広げようとする木もあります。成長過程での枝の付き方にどのようなルールがあれば縦に伸びるような木になり、どのようなルールがあれば全体に枝を広げるような木になるのかを考えてみるのも良いかと思います。このような木の枝のつき方として有名なものに、Lシステムというアルゴリズムがあります。
いずれにしても、しっかりと実際の魚や鳥の群れを観察したり、木の枝のつき方を観察したりして、それにもとづいてルール作りをすることが重要になると思います。