数学基礎・応用数学

シマウマの模様や体組織の形成、自然に形づくられる「模様」の謎に数学で挑戦


出原浩史先生

宮崎大学 工学部(工学基礎教育センター)

どんなことを研究していますか?

私たちのまわりには様々な摩訶不思議な現象があふれています。例えば、シマウマの縞模様はどのようにしてできるのか。なぜキリンやヒョウは縞模様ではないのか。あるいは砂漠の風紋はどうしてできるのか。模様がひとりでに形成されることを、パターン形成と言います。

パターン形成は生物の表面の模様だけでなく、バクテリア集団が作り出すコロニー、化学反応が作り出す動的な模様、温かいみそ汁に見られる対流、乾いた地面に現れるひび割れなど、多岐にわたります。さらに生物の発生において、器官などが形作られていく形態形成も、パターン形成の一つであると言えます。

応用数学のなかで私の学問領域は、近年「現象数理学」と呼ばれている分野になります。パターン形成の面白いところは、何者かによってパターンを作れと命令されているわけではなく、自発的に美しく規則正しいパターンが形成されていくところです。これを自己組織化と言います。

私の研究は、自然界に現れる自己組織的パターンが形成される仕組みを、数学を用いて明らかにすることです。まず、対象となる現象を数学の言葉、つまり数式として表さなければなりません。これをモデリングといいます。その方程式をコンピュータなどで解くことによって、現象が生じる仕組みを解明していきます。

下位層と上位層を数学でつないで、全体を理解する

私は現象が持っている階層構造に興味があります。例えば、脳の一つ一つの神経細胞のふるまいは非常によくわかっていますが、そのような神経細胞が集団として集まった脳が、記憶することができたり、考えることができたりするのはなぜかについては、まったくわかっていません。多くの現象で、個々の下位層では単純なふるまいをしていますが、集団である上位層には、下位層にはない複雑なふるまいが見られます。このような「下位層の個々のふるまいから上位層の現象・機能がどのように生じるか」という問題は、多くの学問分野に共通の疑問であろうと思います。

経済もその一つだと思います。個人の株の売買行動の影響が、全体としての株価の変動にどう現れるのかわかっていません。わかっていないからこそ、時として株価の急落によって経済が混乱したりするわけです。このような下位層と上位層を、数学を用いてつなぐことができれば、一つ一つの細胞の動きとそれが集まった時の集団としての器官や組織の形成や、経済、脳など、様々な分野に貢献することができると考えています。

この分野はどこで学べる?
先生の学部・学科はどんなとこ

私と同じ分野で研究をしている先生がいるので、共同研究を進めています。

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魚や鳥が群れをなしながら集団で移動している様子を、実際に見たことがあるかと思います。その群れにリーダーがいるわけではないということは、すでにわかっています。指示役のリーダーがいないにもかかわらず、集団を形成することができるのはなぜかという疑問を出発点として、個々の個体にどのようなルールがあれば、全体として集団を形成できるのかを考えてみるのが良いかと思います。

また、木の枝のつき方を考えるのも面白いと思います。木の種類によって、成長過程で枝の付き方は様々です。上に伸びようとする木もあれば、光を集めるために枝を全体に広げようとする木もあります。成長過程での枝の付き方にどのようなルールがあれば縦に伸びるような木になり、どのようなルールがあれば全体に枝を広げるような木になるのかを考えてみるのも良いかと思います。このような木の枝のつき方として有名なものに、Lシステムというアルゴリズムがあります。

いずれにしても、しっかりと実際の魚や鳥の群れを観察したり、木の枝のつき方を観察したりして、それにもとづいてルール作りをすることが重要になると思います。

興味がわいたら~先生おすすめ本

かたち 自然が創り出す美しいパターン

フィリップ・ボール 林大:訳(ハヤカワ文庫NF)

規則正しいハチの巣、動物の体の模様や化学反応が作り出す模様――。自然のパターンの秩序と規則性はどのようにして現れるのか、どのようにして混沌から秩序が現れるのか、自然にみられる形はどのように作られるのか。数式を用いずに、わかりやすく簡潔に説明している。それらを科学的に解明するためにモデリングを通して、数式やルール作りが必要であり、異なる現象でも共通の形成メカニズムが背景にありうることが示唆されている。また数学を用いて複雑現象を解明していくことが必要とされていることがわかる。


流れ 自然が創り出す美しいパターン2

フィリップ・ボール 塩原通緒:訳(ハヤカワ文庫NF)

フィリップ・ボール著による万物のパターンの謎に迫る3部作の2冊目。「流れ」がテーマだ。どうして鳥や魚は自然に列をなすのか。砂丘はきれいな模様をかくのか。人や車の流れ、液体や気体など、様々な物質の粒子が“流れ”の状態にあるとき、どんな秩序が生まれるのか。流れが描く美しいパターンを楽しく探っている。高校生にも読みやすく書かれている。


枝分かれ 自然が創り出す美しいパターン3

フィリップ・ボール 桃井緑美子:訳 (ハヤカワ文庫NF)

 自然に潜むパターンの数理を、美しいビジュアルを楽しみながら明かすフィリップ・ボール著の3部作の3冊目。木の成長と枝の付き方などについて、個々にどのようなルールを規定すれば全体としてどのような振る舞いが得られるのか、わかりやすく書かれている。木だけでなく、ガラスの割れ目、山肌、川筋…生物・無生物を問わず、自然が創り出す“枝分かれの科学”が展開される。


SYNC なぜ自然はシンクロしたがるのか

スティーヴン・ストロガッツ 蔵本由紀:監、長尾力:訳(ハヤカワ文庫NF)

SYNCとは、同調や同期という意味。作動の時間を一致させることで、内容や情報を一致させることを指す。つまりシンクロナイズさせること。複数の振り子やメトロノームがいつのまにかシンクロし同じ動きをする。脳波、体内時計など人体にもシンクロ現象があるという。この本は、自然や社会に現れる同期現象についてわかりやすく紹介している。著者であるストロガッツ氏、監修をしている蔵本先生は同期現象の著名な研究者だ。


非線形科学 同期する世界

蔵本由紀(集英社新書)

何万匹ものホタルが同時に明滅するのは、「同期(シンクロ)」現象によるという。著者の蔵本由紀先生(京都大学名誉教授)は、シンクロ現象の第一人者だ。胸の鼓動、呼吸、歩行、鳥の羽ばたき、虫の鳴き声。リズムのあるところに同期がある。同期現象が科学の対象となりにくかったのは、「全体が部分の総和としては理解できない」非線形現象だからだ。この本は、従来からの線形代数では解けないような自然や社会の複雑な現象を、非線形科学の方法によって説明していく。パターン形成、リズムと同期やカオスなどの応用数学のトピックがわかりやすく書かれている。