医薬品の未知なる有害な作用を、医療ビッグデータから見つけ出せ
薬の併用による有害事象が多発
医薬品は治療のための薬効以外にも、有害事象を引き起こす可能性があります。
最近の報告では、複数の医薬品による相互作用によって引き起こされる有害事象の割合は、予期せぬ有害事象の約30%であると推定されています。近年の治療におけるポリファーマシー(たくさんのお薬を併用すること)に関する多数の報告を考慮しますと、医薬品相互作用による有害事象の早期発見は、取り組むべき重要な課題です。
臨床試験で特定されなかった有害事象を検出
私の研究室では、規制当局によって、医薬品の市販後の有害事象を収集・公開された医療ビッグデータ(自発報告システム)を用いて、臨床試験で特定されなかった未知の有害事象を検出、検証するファーマコビジランス*研究を行っています。
現在では、医薬品単剤による有害事象だけでなく、医薬品相互作用による有害事象の早期発見に努めています。また、検出された有害事象のシグナルの妥当性については、ほかの臨床系、化学系、遺伝子関連のデータベースなどを用いて統合的に検証しています。
国際ガイドライン作成にも貢献
自発報告システムには、医薬品の使用によって引き起こされた有害事象症例のみが含まれており、医薬品の総使用者数は含まれていないため、有害事象の発生率を算出することはできません。
そのため、有害事象のシグナルを検出するためにさまざまな解析アルゴリズムが構築、提案されています。私の研究は、これら解析アルゴリズムの妥当性の検証も行い、医療ビッグデータ解析のための国際ガイドライン作成にも貢献しています。
*: 世界保健機構(WHO)では、「医薬品の有害な作用または医薬品に関連する諸問題の検出、評価、理解及び予防に関する科学と活動」と定義されています。
数学と化学が好きで薬学部に入学しました。大学院生のころは、有機化学の知識を活かした創薬研究を行っていましたが、ビッグデータ解析に魅せられて、薬剤疫学の分野に挑戦するようになりました。統計学やデータサイエンスのためのプログラミングなどの習得にも抵抗が少なかったので、研究テーマの移行はスムーズに行えたと思います。
現在は、医薬品の副作用のうち、有害事象を主に調査していますが、今後は、医薬品の副作用の中でも新たに薬効となるものを発見して、既存薬を新たな薬として患者さんにお届けできるようにしていきたいです。
「ビッグデータを活用したエビデンスの高い医薬品相互作用の安全性シグナル探索法の構築」
◆主な業種
(1) 病院・医療
(2) 薬剤・医薬品
(3) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
(1) 薬剤師等
(2) 品質管理・評価
◆学んだことはどう生きる?
薬学部薬学科という、薬剤師育成の大学であることから、病院や薬局の薬剤師として就職する卒業生が多いのですが、研究室で身につけた統計学やデータサイエンスの知識を活かして、製薬企業の医療情報部門や医療行政に携わる職業に就く卒業生などもおり、就職先は多岐にわたります。
修得した医療ビッグデータの解析の技術は、医薬品の市販前の臨床試験では明らかにできなかった有害事象の発見など、患者さんがお薬を安全に使用するために役に立っています。
薬学部の多くは基礎・臨床研究と臨床薬剤師育成の2本柱で学生教育が行われていると思います。近年のICT向上により、薬学分野においてもデータサイエンスが注目されるようになってきました。本研究室では、学部の講義で習う学問である「薬学」と統計学やデータサイエンスの知識を活かした研究能力のある薬剤師育成に努めています。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 独学で習得したので、データサイエンス学部で一から学んでみたいと思っています。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? アメリカ。フロリダ研修で訪れた時、自然環境と都市部の調和がとれていたため。 |
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Q3.感動した/印象に残っている映画は? 『カールじいさんの空飛ぶ家』:冒頭部分に人生が集約されている。(もちろん、その後、始まる冒険も悪くない。) |