複雑な行動を生み出す脳。その深部に超音波でアクセス
脳が生み出す瞬時の行動
道路を渡ろうと歩き始めた瞬間に、車が近づいていることに気づいたら、みなさんは即座に歩みを止めるでしょう。これは、歩行の判断を下した後に周囲の状況が変わり、その結果として行動を抑制した反応です。
このような判断と行動を決定しているのは、私たちの脳です。脳は周囲の状況に応じて行動を調整しています。
私は、脳が柔軟な行動を生み出す仕組みについて研究しています。
MRIで脳の活動を計測
脳を研究するためにはさまざま手法がありますが、私はMRI(磁気共鳴画像法)を用いて人間の脳の活動を計測しています。この手法は脳全体の活動を測定できるので、認知課題を行っている際に関与している脳の部位を包括的に調べられます。
さらに、磁気や超音波を使って、特定の脳部位を頭の外から一時的に刺激し、課題の成績にどのように影響するかを調べることで、その脳部位がどのように関与しているかを解明できます。
脳の回路を見つける手法に有用
これまでの研究では磁気を使った刺激方法がよく用いられてきましたが、これは脳の表面にしかアクセスできないという制約がありました。
最近、超音波を用いた刺激方法が登場し、これは脳の深部にもアクセスできるという利点があり、磁気では刺激が難しかった脳部位にもアプローチできるようになりました。これにより、脳のさまざまな部位を刺激し、課題の成績への影響を調べることが可能となり、私たちはその有用性を報告しました。
このようにして計測と刺激を組み合わせた手法を用い、脳の回路を見つけ、その回路を構成している脳部位がどのように関わりあいながら複雑な行動を生み出しているのか、その全容を解明することを目指しています。
将来的には、脳の回路の知見をもとに、その異常を治すような新たな治療法につなげることに貢献できれば素晴らしいなと思っています。
中学・高校時代に参加した実験教室や大学の研究室一日体験などに影響を受けて、将来は理系の研究者になりたいという漠然とした希望を持っていました。大学では、基本法則からさまざまな現象を説明できるという美しさや奥深さに引かれ、物理学を学んでいました。
次第により複雑な現象を解明したいということに興味を持ち、生命現象、特に脳について研究したいと思い、大学院からは神経科学を専攻することになり、現在に至っています。基本法則を見つけ、脳の複雑な挙動がすべて説明できるのが実現できたらいいなという夢は持っています。
「行動の抑制を実現する神経回路動態の解明:fMRI・TMSによる複合的検証」