従来の社会心理学では、人間の認知・感情・行動を決定づけているのは「意識的」な心の働きだと言われてきましたが、最近は人間の「無意識」の部分が大きな役割を果たしていることが認められています。こうした無意識に関する研究のことを「自動性研究」と言います。
セルフコントロール、ストレス、プラシーボ効果、ブランドイメージ、ステレオタイプや偏見、社会規範と自由意志などのテーマを中心に、自分でも意識できていなかった無意識の影響力や、意識的な努力の功罪、意識と無意識の適切な使い方などの解明に挑んでいます。また、これまで「無意識」と一括りにされてきた意識外の心の働きを分類し、自動性研究の新たな可能性を提示しようとしています。
「生得的」な無意識と「後に得られた」無意識がある
最近行った研究では、心の葛藤を伴う様々な日常場面における意識と無意識の働きを研究するため、育児場面や医療現場などで実験や調査を行ないました。アメリカやイスラエルの研究者にも参加してもらい、意識と無意識の働きに文化的差異はあるのかということも探っています。研究によって、無意識には、生得的なものと、のちに獲得されたものとがあるということもわかってきました。
社会における取り組みや制度の多くは、科学的な検証を待たずに実践されているのが現状です。中には全く効果がないものや、むしろ逆効果なものも含まれています。社会心理学の理論や方法論が社会に浸透すれば、このような現状は大きく変わることでしょう。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→学校教諭や認定心理士、企業や公務員など、実に幅広い業界への就職実績があります。メーカー、流通、金融、マスコミ・情報などの他、高度な知識と技術を学ぶ大学院への進学、その専門技能を活かした心理家への道もあります。
- ●主な職種は→職種も、教育や医療・福祉、営業や事務・オフィスワーク、旅行やレジャー、ITや情報専門職など、多岐にわたります。
分野はどう活かされる?
心理学部の卒業生は、心の仕組みについての知識や心理検査・カウンセリングの技術はもとより、科学的な実証研究や情報検索の方法、マーケティングやデータ解析などのエキスパートでもあります。また、人の心についてもっと知りたいという意欲にあふれています。
このような心理学分野の特徴は、人と関わる幅広い業務に適していますが、とりわけ人々のニーズに応じた製品やサービスの開発や提供、精神疾患や異文化に対する正しい理解、調査やビッグデータの取り扱いなどに適した人材の育成につながっています。
物質的な豊かさは、必ずしも心の豊かさを保証するものではありません。人々の暮らしを真の意味で豊かにするためには、私たちの心の仕組みを解明する必要があります。
臨床、社会、教育、発達、認知、生理など心理学の分野は幅が広く、理論や方法論も多岐にわたりますが、20名の教授陣、最新の研究設備などが揃っています。科学的な先端技術を社会実践に活かす科学者実践家モデルに基づく人材育成を行っています。日本で初めての心理学者として知られる元良勇次郎は、本学の前身、同志社英学校で学んだ学生です。
興味がわいたら~先生おすすめ本
スタンフォードのストレスを力に変える教科書
ケリー・マクゴニガル
すべての人が避けては通ることのできないストレスという問題をテーマに、社会心理学の最新知見を日常に活かす方法が紹介されている。ストレスとセルフコントロール、精神と身体のつながり、個人と社会のつながり、意識の限界と無意識の力、マインドセットの効用など、社会心理学において重要な理論や方法論が詰め込まれている。科学的な根拠のないポジティブシンキングのビジネス書とは一線を画し、スタンフォード大学の人気講師から人の心の仕組みに関心のあるすべての人に向けて、心理学の理論を実践に活かすということが、わかりやすく書かれている本。心理学部を目指すか否かにかかわらず、ぜひ読んでみてほしい。 (神崎朗子:訳/大和書房)