実験心理学

日常生活において、物事をどのように知覚し、理解しているのか、その個人差について


杉森絵里子 先生

早稲田大学 人間科学部 人間情報科学科/人間科学研究科 人間科学専攻

どんなことを研究していますか?

扱っている事象は多岐にわたるのですが、例の一つとして「顔認知」について挙げましょう。人は自分の顔を、実際より美しく認知する傾向があることが、先行研究によって明らかになっています。我々の研究室では、その知見を元に、「自分に自信がある人とない人では、自分の顔の認知の仕方が異なるのではないだろうか」「付き合っている恋人同士は、相手の顔の認知の仕方が赤の他人の場合と異なるのではないか」といったことに興味を持ち、実験室において実験をすることで、その興味を科学的に明らかにしようとしています。

「自分に自信がある人とない人では、自分の顔の認知の仕方が異なるのではないだろうか」という興味に関しては、「自分への自信」を「自己肯定感」と捉え、「自己肯定感」を測定する質問紙を用いて、各実験参加者の自己肯定感を測定しました。あらかじめ許可を得て撮らせてもらった写真を、様々に加工したものと実際の写真を混ぜて複数枚呈示し、「この中であなたの顔はどれだと思いますか」とたずねました。その結果、自己肯定感が高い人は、実際の顔写真より、より美しく加工された写真を「自身」と選択し、低い人は、実際の顔写真を「自身」と選択する傾向があることが明らかになりました。

自身の顔認知には自己肯定感が関わり、他者の顔認知には親密度が関わる

image

「付き合っている恋人同士は、相手の顔の認知の仕方が赤の他人の場合と異なるのではないか」という興味に関しては、異性愛者カップルを実験室に2組招待します。2組でグループワークをしてもらったあと、あらかじめ許可を得て撮らせてもらった写真を様々に加工したものと実際の写真を混ぜて複数枚呈示し、自身のカップルのパートナーについて「あなたの彼氏/彼女はこの中でどれですか」、相手のカップルの異性について「先ほど一緒にグループワークしたカップルの異性はこの中でどれですか」とたずねました。

また、彼らにはパートナーとどの程度仲が良いかということを測定する「恋愛親密度尺度」に回答してもらいました。その結果、自身のカップルのパートナーに対する親密度が高ければ高いほど、そのパートナーの顔を実際より美しく加工された写真を選択し、相手のカップルの異性を実物どおりに判断すること、自身のカップルのパートナーに対する親密度が低くなれば、そのパートナーの顔を実物どおりに判断する一方で、相手のカップルの異性を美しく判断する傾向があることが明らかになりました。こういった研究は、醜形恐怖症や浮気のメカニズム解明につながると考えています。

image

眼鏡型の視線計測器

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→情報通信業、教育・学習支援業、金融業・保険業など
  • ●主な職種は→専門職(経営・金融・保険系)、営業・企画職など
分野はどう活かされる?

自身を知ること、他者を知ることで、人間や社会を幸せにしようという目標を掲げて研究を行っています。こういった姿勢は、接客業や商品開発の場面で活かせます。

先生から、ひとこと

高校生までの正解ありきの勉強から、正解そのものを探す旅のような学問へのシフトに初めは戸惑うかもしれません。しかし、主体的・積極的に学ぼうという学生の基本姿勢さえ身についていれば、実に多くのことを学び、またその学ぶ姿勢こそが人生を豊かにすることにつながると考えています。

先生の学部・学科はどんなとこ

人間について、「人間との関わりから見た環境」、「健康福祉」、「人間と情報との関わり」、など様々な分野からアプローチできる学部です。授業を受けながら、それぞれの分野の素晴らしい点、限界点を知り、他の分野によって限界を補うことができる可能性に気づくことができます。好奇心が高い人、幅広い知識を身につけたい人に向いている学部です。

image

皮膚の電気活動を測定する様子

先生の研究に挑戦しよう

記憶がどれぐらい定かでないかということを実験的に示すと面白いですよ。DRMパラダイムというものを用いた実験をしてみてください。下記は、DRMパラダイムについて面白く紹介しているサイトです。
http://hitokotoshinri.blog.fc2.com/blog-entry-44.html

興味がわいたら~先生おすすめ本

進化しすぎた脳 中高生と語る[大脳生理学]の最前線

池谷裕二

高校生に行った、脳の仕組み、記憶や意識・無意識といった脳科学に関する講義を収録。高校生の素朴な疑問にも答える。常に、一般の人にわかりやすく脳科学を伝えようという姿勢を持ち続けていることが素晴らしい。池谷先生の本には、詳しい実験方法についても書かれており、日常の疑問をどうやって実験にまで落とせるのか、科学とは何なのかというところまでわかる。科学は難しいものではなく、実は日常なのですよというところが面白い。同じ著者による『記憶力を強くする』『単純な脳、複雑な「私」』(いずれも講談社ブルーバックス)もおすすめだ。 (ブルーバックス)


インセプション

他人の夢の中に入り込み、潜在意識の中からアイデアを盗む産業スパイをレオナルド・ディカプリオが演じるSFアクション映画で、大ヒットした。潜在意識をモチーフにした点でおすすめ。夢の中のさらにまた夢に入るという多段構造になっていたり、主人公のリアルと過去が錯そうしたりして、1回ではとても咀嚼できないかもしれない。クリストファー・ノーランが監督、共演に渡辺謙。


インサイド・ヘッド

主人公の11歳の少女の頭の中にある5つの感情をキャラクター化。それぞれの感情が思いを持ち、葛藤しながら相互のバランスを取り合うことで、少女の心を安定に導く姿を描いている。大ヒットのディズニー映画。


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。