個人を特定しないデータで、人の姿・動きを推定するシステム
「人物の状態」はスポーツや見まもりに役立つ
私の研究では、個人の特定に繋がりやすい情報を活用せずに人物の状態を推定する、というテーマに取り組んでいます。「人物の状態」としては、人の姿勢や体格形状などを主に想定しています。
これらの情報が分かると、スポーツのパフォーマンス分析や、子供や高齢者の見まもり、XRコンテンツなどの多くの用途での活用が期待できます。
顔がわからないシルエットなら安心
人物の状態推定を行うために最も良く使われるデータは、一般的なカメラで計測した画像です。しかし、画像には顔などの個人情報が含まれやすいため、撮影されることに抵抗を感じる方には技術を気持ちよく使っていただくことができません。
そのため私の研究では、人物と背景が白か黒かのみで表されたシルエット画像や、無線信号、音響信号などの「個人の特定に繋がりにくい計測情報」を使用しています。
情報が少ないデータを機械学習でカバー
通常の画像と比較すると、シルエット画像からは大幅に情報が失われているということは、きっとご想像いただけると思います。
無線信号や音響信号についても、一般的な画像と比較すると保持可能なデータには物理的な限界があります。これには、信号の波長が大きく関わっています。一般的なカメラで計測される可視光の波長はnmオーダーです。一方でWiFiやミリ波などの無線信号の波長はmm~cmオーダー、音響信号の波長はcm~mオーダーです。これは、可視光はnmという非常に細かな単位で空間情報を捉えられるのに対して、無線信号や音響信号はそれよりも大まかな情報しか取得できないということを意味しています。
このような、取得できている情報が少ないデータから人物の状態を推定することは難しい課題です。課題解決のためには、機械学習という技術を使っています。近年の深層機械学習技術の発展に伴い、非常に多くの効果的な手法が毎年発表されているため、最新の動向を追いながら自分たちの課題を解決可能なアプローチを考えています。
高校生の時に受けた授業で簡単なプログラミングを行ったことをきっかけに、情報学分野に興味を持ちました。プログラミングと言ってもSqueakという、特にプログラミングの知識がなくても直感的に実装が可能なソフトウェアを使っていたのですが、当時の自分はこれなら苦手ではないかもと思い、大学も情報系に進みました。
情報工学にも様々な研究分野がありますが、大学、会社、留学先での研究活動を通じて少しずつ研究内容が変わり、今に至ります。
Computer Vision:Algorithms and Applications 2nd Edition
Richard Szeliski(Springer)
コンピュータビジョン分野に興味を持ってくださった方におすすめしたい本です。英語で約1000ページあるため普通に読むのは大変だと思うのですが、図だけを見てコンピュータビジョン分野の技術でこんなことができるんだ、と眺めるだけでも、この分野で扱う内容がなんとなく掴めるのではないかと思います。
ハードカバー本は高価ですが、個人的にpdfのコピーを閲覧するだけであれば無料で手に入れられます(2024年1月現在)。また、この本の2010年に出ている初版には和訳『コンピュータビジョン アルゴリズムと応用』があります。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? やはり情報工学を選ぶと思います。楽しくて実用的でもあり、おすすめです! |
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Q2.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 2人の子供の子育て |
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Q3.好きな言葉は? 「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」(SF作家アーサー・C・クラークの三法則より) |