がん細胞だけ狙い撃ち! 独自のナノ粒子で薬を包み、狙った場所へ
副作用を減らすために
がんは、日本人の死因の3割を占めます。
現在、治療薬として用いられる抗がん剤の多くは、がん細胞を殺す作用をもつ低分子化合物がほとんどです。一方で、このような抗がん剤ですが、がん細胞はもともと人間の細胞から変化したものであるため、変化前の正常な細胞にもダメージが入ってしまうことがあり、それが副作用という形で現れます。
そのため、副作用の低減を目指して、狙った場所だけで選択的に薬を機能させる方法について、様々な先生が開発しています。
網目構造を持つナノ粒子を用いて
私は、光で切れる網目構造からなるナノサイズ(ミリメートルの100万分の1の桁)の粒子に低分子を包み、必要な時以外は、外から隔離し、必要な時(がん細胞に届いた時)に、光で網目を切断して低分子を放出して機能させる方法を開発しています。
網目構造を持つナノ粒子を用いる本手法の特徴として、「粒子の網目より小さい分子は、出入りが自由で、大きい分子は粒子の中に機能を保ったままで閉じ込めることか可能」「粒子の網目を切断することで、閉じ込められた分子を放出して、機能させることが可能」という2点があり、それを利用して、低分子の医薬品の活性=薬の効き具合を制御することができます。
将来は、ナノ粒子内の酵素が薬を作ることも
ここまでの話の例では、低分子を制御して副作用の少ないがん治療を目指すものですが、本システムでは酵素などより大きい分子についても機能を保ったまま閉じ込めることが可能であり、さらにそこに生体内の低分子がアクセスすることも可能という面白い特徴があります。
将来的にはその特徴を生かして、生体内の成分を材料として、ナノ粒子内部に備え付けた複数の酵素等の作用によって薬を作り、作った薬をナノ粒子から生体内の必要な場所で必要な時に放出させる、体の中でナノサイズの医薬品工場を作る治療法を目指しています。
最初は、光で酵素の機能をON/offできる5mm程度の大きさの固体のゲルを作る研究を行っていました。
ある日の実験で、上手く固まらず液体のままの時がありました。その時はご飯を食べに行きたかったので、ゲルの調製実験をやり直さずに、光による酵素のON/offの確認試験をしたところ、ON/offの制御が出来ていたことから、目には見えない大きさの何かが出来たことがわかりました。それが何物であるかを調べていったらナノサイズの粒子だとわかったのが、この研究の始まりです。
「光応答性ナノ粒子を用いた低分子化合物の微細空間における活性の量的制御法の開発」
◆主な業種
(1) 病院・医療
◆主な職種
(1) 薬剤師等
(2) 保安(警察・消防・警備等)等
昭和大学では、1年次に富士吉田での寮生活があり、そこでは薬学部だけでなく、医学部・歯学部・保険医療学部といった様々な学部の人と同じ部屋で1年間の共同生活を行います。そこで、他者への思いやりと共生のこころを育むとともに、薬学だけではない幅広い視野を養うことができ、さらに医学部・歯学部・薬学部・保健医療学部が連携して研究活動を行うことにもつながります。