なぜシェイクスピアは言葉だけで、情景を絵のように見せられるのか
シェイクスピアの「絵画的描写」
現在私は、イギリスの劇作家シェイクスピアの劇の中にある絵画的描写について研究をしています。シェイクスピアの劇の中には、実際に舞台では演じられずセリフだけで状況・情景を説明しているのに、まるで絵画を見ているように観客に感じられる場面がかなり多く、その手法も様々であることがわかってきました。
ないない尽くしの環境でセリフが研ぎ澄まされた
例えばミレーの「オフィーリア」(19世紀)という絵があります。オフィーリアの死の場面は原作では舞台上で演じられず、セリフだけで語られることになっています。ですが、シェイクスピアが詩的な言葉で非常に美しくオフィーリアの水死の場面を描いたことに触発されて、この名画が生まれたことは、シェイクスピアのセリフの絵画的な魅力を示すものと言えます。
さらに、シェイクスピア時代の劇場は、屋根も照明装置も女優もいない、ないない尽くしの環境でした。だからこそ、見えないものを見せるという点で研ぎ澄まされた、素晴らしいセリフができたのだろうと思います。
ジーパン姿の役者たちの演技がきっかけ
実は、私が大学でシェイクスピアをやろうと思ったのは、装置すらない小さな劇場で、ジーパン姿の若者たちが見事なシェイクスピアを演じていたのを見たのがきっかけでした。
難しいはずの言葉が心に響き、紙でできた剣や王冠を身につけた俳優たちが、イギリスのあの時代の貴族たちに見えてきたから不思議です。想像力を持ってこそ、文学・演劇は理解できるのだと思いますし、想像力というものは生きてゆく上でも最も大切なものではないかと思います。人生と芸術とを切り結ぶこうした研究は、世界を見る目を変えてくれるに違いありません。
不平等や不公正、および差別に関する問題は、シェイクスピアの時代には公然とありましたし、『ヴェニスの商人』などの劇中にもそうした不公正・差別を叫ぶ言葉が出てきます。
文学・演劇は直接的な手段や社会の仕組みへの貢献はできないかもしれませんが、シェイクスピアの言葉を知ることにより、人間社会はどうあるべきか、国家間の軋轢・戦争などをどうすればなくせるのかという、人間として最も大切な想像力を、そして世界を見る視点を、これから世界を担ってゆく若者に与えてくれると思います。
「シェイクスピアの視覚的表象の研究」
河合祥一郎
東京大学 教養学部 教養学科/総合文化研究科 超域文化科学専攻
シェイクスピアを全方位的に研究されています。日本のシェイクスピア学者の中で、一番著書が多い方だと思います。『ハムレット』の謎を改名した『謎解き「ハムレット」』などは名著です。研究者としてだけでなく、シェイクスピアの舞台の演出もなさり、現場のシェイクスピアを実践している学者として大いに啓発されています。
中野春夫
学習院大学 文学部 英語英米文化学科/人文科学研究科 英語英米文学専攻
シェイクスピアの時代の背景を実に詳細に解き明かす研究が多く、魔術などの状況についても非常に詳しい先生です。当時の時代状況とシェイクスピアの結婚物語との比較検討をされた『恋のメランコリー―シェイクスピア喜劇世界のシミュレーション』という著書は、膨大な情報に基づく作品究明の手法が見事で、大きな影響を受けました。
◆講義「シェイクスピアと現代」の初回では
シェイクスピアと現代とのつながりについて、ヤン・コットの『シェイクスピアはわれらの同時代人』やレオナルド・ディカプリオ主演の『ロミオ + ジュリエット』の映画などを取り上げ、学生に問いかけています。
◆「ゼミ紹介 シェイクスピア文学の最高峰『ハムレット』を原文で学ぶ ~セリフから得る人生への力~」(早稲田大学体験WEBサイト)
◆「早稲田大学・英バーミンガム大学が提携 共同研究を強化、推進」(早稲田大学)
◆「ウーラ・レポート(第5回) フェス早稲田シェイクスピア 英国バーミンガム大学との共同研究推進へ」(早稲田大学)
◆「文学座 シェイクスピア祭り」(文学座アメブロ)
◆主な業種
(1) 金融・保険・証券・ファイナンシャル
(2) 商社・卸・輸入
(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
(1) 一般・営業事務
(2) 大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
卒業論文を指導してきた学生は、一般企業への就職が一番多いのですが、数年前にはNBS日本舞台芸術振興会という、バレエやオペラの海外の招聘公演などを行う会社に入り、現在も招聘公演では中心となって活躍している学生がいます。また、私の企画により早稲田の学生でシェイクスピア公演を年に一度行いますが、その主役をやった学生が卒業後文学座の研究所に入り、現在は俳優として活動し始めています。
早稲田大学の文学部では、日本のシェイクスピア研究の先駆けである坪内逍遙博士の伝統を受け継ぎ、テキストの研究だけでなく翻訳も多くなされ、上演の研究も盛んです。また、私の所属する日本シェイクスピア学会では、テキストの詳細な研究(書誌学)、作品論、上演論、ジェンダー論など多彩ですが、近年ではアダプテーションという様々な時代・文化に適応して書き直されたシェイクスピアの研究もよく行われています。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? やはり英文学で、シェイクスピア。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? イギリス。もちろんシェイクスピアの国だということと、古きものを愛するイギリス人的思考に大いに共感するため。 |
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Q3.大学時代の部活・サークルは? 混声合唱団。主にミサ曲を歌っていました。 |
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Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 結婚式での合唱のアルバイト(サークルで)。 |