英米・英語圏文学

シェイクスピア

なぜシェイクスピアは言葉だけで、情景を絵のように見せられるのか


冬木ひろみ先生

早稲田大学  文学部 文学科 英文学コース(文学研究科 人文科学専攻 英文学コース)

出会いの一冊

近代文化史入門 超英文学講義

高山宏(講談社学術文庫)

著者の高山宏先生は英文学の専門でもあり、また私の研究テーマの絵画的手法の一つであるマニエリスム(バロックの手前の美術史上の技巧の多い様式のこと:歪みを持った絵を含む)の専門家です。

シェイクスピアからデフォー、コナン・ドイルまでの英文学を語る一方、文学だけでなく、美術、哲学のジャンルを超えた視点が世界を見る大きな手段であることを、力強く、独特な語り口で(時折少々難しいこともありますが)語ってくれる本です。特に、視覚面から世界を捉える手法を明確に解説し、例示してくれる名著だと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

なぜシェイクスピアは言葉だけで、情景を絵のように見せられるのか

シェイクスピアの「絵画的描写」

現在私は、イギリスの劇作家シェイクスピアの劇の中にある絵画的描写について研究をしています。シェイクスピアの劇の中には、実際に舞台では演じられずセリフだけで状況・情景を説明しているのに、まるで絵画を見ているように観客に感じられる場面がかなり多く、その手法も様々であることがわかってきました。

ないない尽くしの環境でセリフが研ぎ澄まされた

例えばミレーの「オフィーリア」(19世紀)という絵があります。オフィーリアの死の場面は原作では舞台上で演じられず、セリフだけで語られることになっています。ですが、シェイクスピアが詩的な言葉で非常に美しくオフィーリアの水死の場面を描いたことに触発されて、この名画が生まれたことは、シェイクスピアのセリフの絵画的な魅力を示すものと言えます。

さらに、シェイクスピア時代の劇場は、屋根も照明装置も女優もいない、ないない尽くしの環境でした。だからこそ、見えないものを見せるという点で研ぎ澄まされた、素晴らしいセリフができたのだろうと思います。

ジーパン姿の役者たちの演技がきっかけ

実は、私が大学でシェイクスピアをやろうと思ったのは、装置すらない小さな劇場で、ジーパン姿の若者たちが見事なシェイクスピアを演じていたのを見たのがきっかけでした。

難しいはずの言葉が心に響き、紙でできた剣や王冠を身につけた俳優たちが、イギリスのあの時代の貴族たちに見えてきたから不思議です。想像力を持ってこそ、文学・演劇は理解できるのだと思いますし、想像力というものは生きてゆく上でも最も大切なものではないかと思います。人生と芸術とを切り結ぶこうした研究は、世界を見る目を変えてくれるに違いありません。

ロンドンにあるシェイクスピアの劇場
ロンドンにあるシェイクスピアの劇場
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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不平等や不公正、および差別に関する問題は、シェイクスピアの時代には公然とありましたし、『ヴェニスの商人』などの劇中にもそうした不公正・差別を叫ぶ言葉が出てきます。

文学・演劇は直接的な手段や社会の仕組みへの貢献はできないかもしれませんが、シェイクスピアの言葉を知ることにより、人間社会はどうあるべきか、国家間の軋轢・戦争などをどうすればなくせるのかという、人間として最も大切な想像力を、そして世界を見る視点を、これから世界を担ってゆく若者に与えてくれると思います。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「シェイクスピアの視覚的表象の研究」

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◆講義「シェイクスピアと現代」の初回では

シェイクスピアと現代とのつながりについて、ヤン・コットの『シェイクスピアはわれらの同時代人』やレオナルド・ディカプリオ主演の『ロミオ + ジュリエット』の映画などを取り上げ、学生に問いかけています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
イギリス・バーミンガム大学大学院シェイクスピア研究所での講演(2016年)
イギリス・バーミンガム大学大学院シェイクスピア研究所での講演(2016年)
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1) 金融・保険・証券・ファイナンシャル

(2) 商社・卸・輸入

(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

◆主な職種

(1) 一般・営業事務

(2) 大学等研究機関所属の教員・研究者

◆学んだことはどう生きる?

卒業論文を指導してきた学生は、一般企業への就職が一番多いのですが、数年前にはNBS日本舞台芸術振興会という、バレエやオペラの海外の招聘公演などを行う会社に入り、現在も招聘公演では中心となって活躍している学生がいます。また、私の企画により早稲田の学生でシェイクスピア公演を年に一度行いますが、その主役をやった学生が卒業後文学座の研究所に入り、現在は俳優として活動し始めています。

先生の学部・学科は?

早稲田大学の文学部では、日本のシェイクスピア研究の先駆けである坪内逍遙博士の伝統を受け継ぎ、テキストの研究だけでなく翻訳も多くなされ、上演の研究も盛んです。また、私の所属する日本シェイクスピア学会では、テキストの詳細な研究(書誌学)、作品論、上演論、ジェンダー論など多彩ですが、近年ではアダプテーションという様々な時代・文化に適応して書き直されたシェイクスピアの研究もよく行われています。

中高生におすすめ

シェイクスピアの人間学

小田島雄志(新日本出版社 )

シェイクスピアの言葉や時代状況を概説している本ですが、何よりもシェイクスピアの何が魅力なのかを非常に平明に、実体験を含めて語ってくれる素晴らしいエッセイです。また人生の教訓とも言えるシェイクスピアの言葉を多く引用し、解説してくれている点も魅力ですし、一番心に響くのは、「シェイクスピアを好きになれば、世界から戦争がなくなる」という言葉でしょう。


恋におちたシェイクスピア(映画)

ジョン・マッデン(監督)

若きシェイクスピアが、どのようにして『ロミオとジュリエット』を執筆し上演に至ったかを、恋愛を軸に描いた作品。ただし、シェイクスピアが失恋をしたからこの悲劇を書けたのだというストーリーは実は嘘で、わかっていてそうした筋にしたらしいです。それも大きな魅力であり、当時の劇団・劇場の状況を知るには最高の映像です。


リチャードを探して(映画)

アル・パチーノ(監督)

アメリカの名優アル・パチーノが、シェイクスピアの歴史劇の一つ『リチャード3世』の舞台を製作してゆく過程を見せる、セミ・ドキュメンタリー映画。アル・パチーノの、謙虚で学者以上に鋭いシェイクスピアのテキストの読み方が非常に感動的で、シェイクスピアを読む前にぜひ見てほしい映画です。

最初の方の市民へのインタビューで、男性が「シェイクスピアを学校で教えれば銃で殺し合うことなんかなくなるよ」と言っている言葉が心に突き刺さります。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

やはり英文学で、シェイクスピア。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

イギリス。もちろんシェイクスピアの国だということと、古きものを愛するイギリス人的思考に大いに共感するため。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

混声合唱団。主にミサ曲を歌っていました。

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 結婚式での合唱のアルバイト(サークルで)。


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