ずうっと、コンピュータは人にやさしいと言えるのかを考え続けたIT研究者がいます。パソコンを使えないけど紙媒体なら使いたい人、子ども、体の不自由な人…。困っているユーザの気持ちを徹底して想像し、世界最高水準の人にやさしいコンピュータを開発してきた宮田先生の声に耳を傾けてみてください。
世界最高水準の位置特定技術を使って、紙の本とスマホをつないで便利に~人にやさしいコンピュータを創る
コンピュータは身近になったけれど、人にやさしいといえるのでしょうか。手のふさがっている人、子どもやお年寄り、体に不自由のある人…。ユーザの気持ちを徹底的に想像するイマジネーション力が必要です。
私はこの10年間、人にやさしいコンピュータを作る研究を続けてきました。私の取り組んだ2つの例を紹介しましょう。
1つ目は、パソコンが使いこなせない人でも紙の本なら使いやすいという人向けです。私は、本を開いてスマホで撮影すると、その本のページがデータベース化された100万ページのどこにあるのかすぐに特定できる世界最高水準の位置特定技術を開発しました。名づけて Kappanといいます。
この技術を使えば、例えばあらかじめデータベース化された旅行ガイドブックにスマホをかざして撮影すると、そのページに関連する動画や写真などがスマホ上に表示されるというサービスが可能になります。つまり、本に後からQRコードなどをつけることなく、本の部分画像からそれがどの書籍の何ページであるかを特定して、そのページに関連づけられた動画や写真などのデジタルコンテンツを提示できるのです。
これは教科書にも使うことができます。生徒が家で教科書にスマホをかざすと、理科実験映像を表示してくれます。それによって子どもの予習・復習を支援する学習サービスが可能になります。他にも様々な利用方法が考えられます。
2つ目に、暮らしの動作をいちいち中断してスマホ・パソコンを操作するのは面倒だと感じている人のために開発した、xSealがあります。加速度センサとスピーカーを合体させた、家具を賢くするシール型デバイスです。これを使えば、いつもどおり暮らすだけで家具が助けてくれます。
例えばこれをゴミ箱に貼れば、ゴミ箱を開けるときごみ収集日を、音声で教えてくれます。洗濯機に貼れば、午後からの天気を教えてくれます。玄関のドアに貼っておくと、出かけるとき、「次のバスは○時○分です」と教えてくれます。薬箱に貼ると、薬の飲み忘れをチェックしてくれるようになるんです。
ユーザは何に困っているか想像する力、ヒューマンインターフェースで何ができるかという創造力。この2つの力で、人にやさしいコンピュータを作り続けたいと思っています。
誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論
D.A.ノーマン 岡本明、安村通晃、伊賀聡一郎、野島久雄:訳(新曜社)
ある製品やシステムを上手く使えないとき、悪いのはユーザではなく、それを設計したデザイナであることを説いています。同時に、人を困らせないような、使いやすい製品・システムをデザインするための考え方を教えてくれます。社会の役に立つモノを作りたいと考えている人にお勧めです。
ノーマンは冒頭で、「日本は技術においては先を走っています。しかしながらユーザの必要とするものを考慮するという点においては、ヨーロッパやアメリカの扇動的なメーカーに比べ、はるかに遅れています。」と語っています。これからの日本を背負って立つみなさんは、本当にユーザの幸せに繋がるものを作るんだというマインドを、若いうちから育ててほしいと思います。
本書からは、インタラクション研究に取り組む上で重要な、「どうすればユーザメリットを最大化できるか?」という考え方の基礎を学ぶことができます。この本の良いところは、世の中に実在する悪い例を紹介した上で、それはなぜ悪いのか、どうすれば良くなるのかを順序立てて説明している点です。そして、具体例から導出される汎用的な考え方も示してくれているので、ユーザが直接手に取る製品・システムを作る仕事に就きたい人は、ぜひ一読することをお勧めします。
アイデアのつくり方
ジェームス・W・ヤング 今井茂雄:訳(CCCメディアハウス)
運や偶然に頼らずに、創造的なアイデアを生み出すための方法論をわずか数十ページで教えてくれる名著です。企画力を求められる仕事に就きたいと思う人にお勧めです。
発想する会社!ー世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
トム・ケリー、ジョナサン・リットマン 鈴木主税:訳(早川書房)
社会や日常に潜む問題をクリエイティブに解決していくデザイン・ファームIDEOのアプローチを、実例を交えながらわかりやすく紹介してくれます。自分がいかに固定観念に縛られているかを気付かせてくれるのではないでしょうか。将来、クリエイティブな仕事をしたいと思う人にお勧めです。