細胞が自分を食べる オートファジーの謎
水島昇(PHPサイエンス・ワールド新書)
オートファジーという生命現象について、なぜ分解が重要なのかといったところからオートファジーのしくみ、病気との関わりまで一般の読者に向けて書かれています。オートファジー研究の黎明期からの研究史についても書かれており、この分野の発展の歴史を知るのにも役立つでしょう。
マクロオートファジー(後述)以外のオートファジー経路に特化した一般書というのは私の知る限り日本語ではまだ無く(それだけ研究がまだ進んでいないということでしょう)、本書でも内容の多くはマクロオートファジーについてになりますが、他のオートファジー経路についても少し触れられています。
細胞内の分解に関わる未知なるオートファジー経路を探して
細胞内のごみ処理場リソソーム
私たちの身体はたくさんの細胞が集まって形作られています。そして個々の細胞の中では日々、生命活動に必要な様々なものが作られ、そして壊されています。
この合成と分解はいずれも重要な生命現象であり、どちらが異常になっても病気の原因となったりしてしまいます。私が行っているのは、この内の分解に関わる研究です。
細胞の中にはリソソームと呼ばれる直径数百ナノメートルほどの袋(細胞内小器官)があります。このリソソームというのは細胞内のごみ処理場のような場所で、内部に入った様々な物質を分解することができます。
マクロオートファジー以外の経路も
しかし、リソソームで細胞内のものを分解するにはこの「ごみ処理場」の中にどうにかして運び込まなくてはなりません。このように細胞内の物質をリソソーム内へと運び込み、分解する仕組み・経路のことをオートファジーと総称します。
オートファジーの研究では、2016年に日本の大隅良典先生がマクロオートファジーと呼ばれる経路の研究でノーベル賞を受賞されるなど、日本の研究者の先生方が世界をリードされてきた歴史があります。
しかし、リソソームによる細胞内物質の分解のすべてをマクロオートファジーで説明できるかと言うと、そうでもないようなのです。実際、オートファジーにはマクロオートファジー以外の経路も知られていますが、相対的に研究が進んでいません。
新たな経路を発見、病気との関連も
私たちはこのように未開拓な経路、いわば「非典型的オートファジー経路」に興味を持ち、研究を行ってきました。そしてリソソームの膜に存在する、あるタンパク質を介してリソソームが直接物質を取り込む、新しい細胞内分解経路を発見しました。さらに共同研究により、この新しい経路の異常がどうやら筋や神経の疾患の原因となるようだということなどを見出しています。
現在はこのような未知の分解経路のメカニズムや、細胞内分解の異常と細胞やヒトの生老病死との関わりにも興味を持って研究をしています。
物心ついた頃からなぜか研究者には憧れており、小学生の頃は南方熊楠やシュリーマンなどの伝記を読んで生物学者や考古学者を夢見ていました。ダメダメな中学時代を経て高校生の時は将来は動物の行動や社会について研究がしたいと思っていたのですが、大学受験で第一志望校に不合格に(!)。
失意の中この先どうしようと思っていた時、受験で学んだ細胞・分子生物学的な学問も面白そうだなと思うようになりました。高校の恩師が「理科の教科書で間違いが残っている可能性が一番高いとすればそれは生物だ」とおっしゃっていたのも、生命科学に関心を持ち続ける後押しになっていたかもしれません。
そんな矢先、大学に出張授業に来られていた研究所の先生のお話がとても面白く、すぐにアポを取って研究所まで見学に、そして3年生から研究所に通うようになっていました。まさかあの1回の授業が現在の仕事にまでつながっていたとは…。18、19歳の頃の失意の自分にはそんなに落ち込むことはないし、なんならもっと悩んだり落ち込むべきことがたくさんあるぞと伝えてやりたいです。
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開発:Anurag Acharya、Alex Verstak
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