自然災害の時に、交通、通信、電力などのシステムが支障なく動作すること、あるいは迅速な避難の誘導をしたり、被災者に適切な物資を供給したりすることは、極めて重要です。災害時でなくても、システムや装置の故障が少なく、安定して動作することは、安全で安心できる社会生活を維持するために必須です。「社会システム工学」「安全システム」の研究は、大規模なシステムの効率的な設計方法や運用方法、故障や災害時等の行動規則などを工夫することで、一層安全・安心な生活が送れるようにするための技術の確立を目指しています。
特徴は、個々の装置の改良ではなく、多くの装置や人間の相互作用に着目し、システムとしての安全性などの向上を目指すところにあります。したがって、研究の方法としては、対象とするシステムや現象をコンピュータでシミュレーションするなどして、それを現実の対策にまでまとめ上げます。
災害時の交通網や電力網を自動分析するシステムを目指して
私は通信企業の研究所に長年所属し、通信ネットワークの信頼性を研究してきました。その時作成した設計基準は、現在も日本の基準となって通信網が建設されています。現在は、通信網、交通網、電力網や企業の物流網など、社会活動を支える有形・無形のネットワークについて、平常時の高い信頼性を維持し、災害時にも最大限の機能を発揮させるための、設計・管理方法を研究しています。
現在着目しているのは、災害時には道路が破壊され、その結果電力網の修理も遅れるというように、避難や復旧の効率は複数のネットワークの状況に影響されることです。複数のシステムの連携は、従来から指摘されていましたが、実際の大規模なシステムでの検討はあまり行われていませんでした。そこで、複数のネットワークの相互作用をコンピュータで解析できるモデルを作成し、様々な条件での分析を自動的に行うシステムの開発を進めています。それにより、いろいろな社会インフラを構成する設備に対して、頑丈さという信頼性基準を決められないか検討しています。将来は、例えばカーナビのように、現在いる地点を中心に、どこに危険が潜んでいるか示す、「安全を目で見る」ことのできるシステムが実現できると考えています。
また最近は、安全な遠隔手術の実現などを念頭に、通信に遅れがある場合にも安定な操作を維持するための、基礎的な研究を行っています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→情報通信、自動車産業、金融、広告等
- ●主な職種は→研究開発、SE、品質管理等
- ●業務の特徴は→様々な技術分野を横断的に把握し、効率化するような業務
分野はどう活かされる?
NTTの研究所に就職した修士修了生がいます。学生時代のシステム信頼性の研究を活かし、通信網の信頼性に関する研究開発に従事しています。また、自動車産業で品質管理に従事している卒業生もいます。
大学は、今までになかった技術や学問を作り出す、言ってみれば、既存の公式を使うのではなく新しい公式を作り出すために必要な力を養うところです。そのために重要なのは、数学や自然科学など、工学の基礎に十分に習熟することです。基礎的な学習こそが、新しい技術を生み出します。
工学部情報工学科の前身は、経営工学科でした。経営工学は、もともとは1920年代に米国で工業製品の大量生産が始まったのをきっかけに生まれた学問です。生産現場で起こる様々な問題を、科学的手法、とりわけ確率統計を中心とした数学的な手法で分析し、解決策を見出すといった学問です。1990年代になって、情報技術の進展に伴って経営工学の守備範囲が広がりました。そして、この状況を踏まえ、今後の方向性を考えて、従来の経営工学科を改組して情報工学科を設置し、研究・教育の内容の見直しを行いました。
研究分野としては、安全安心な社会のためのシステムを設計する「ソーシャルデザイン」、様々な現象を理解するために、データを科学的に分析し様々なシステムに応用する「データサイエンス」、高度なセキュリティを備えた情報ネットワークの実現とネットワーク社会に対応した技術を創出する「ソフトウェアデザイン」、人間の知的特性を把握し人にやさしい情報技術を開発する「インテリジェントシステム」の4分野を柱とし、新しい時代の情報システムの研究開発を行います。本学開学以来からの伝統である「真に実力をつけた者のみを卒業させる」との考えに基づき、引き続き厳しく充実した指導を行っていきます。
興味がわいたら~先生おすすめ本
高校生、災害と向き合う 舞子高等学校環境防災科の10年
諏訪清二
1995年の阪神・淡路大震災の後、その教訓を学ぶために設置された学科が、兵庫県立舞子高校環境防災科だ。本書は学科長の諏訪先生によるもので、学科解説の趣旨や学習内容から始まり、設置後10年の経験から重要な事柄を解説する。災害に対応するポイントとして、危険個所の把握など日頃の備えや、災害発生直後の判断、関係者の人間的なネットワークや、過去の教訓を伝えることの重要性などを、生徒の声と共に伝えている。また、東日本大震災の際のボランティア活動についても紹介している。防災対策が、設備、情報、人間のネットワーク、災害に遭遇した時の判断など、総合的なものであることを理解するとともに、このような活動を科学の眼で以って分析し、支援するための研究が展開されていることに思いをはせてほしい。 (岩波ジュニア新書)