流体工学

微細な流体

特殊な蛍光分子で、髪の毛ほどの細い流れにかかる力を可視化する


栗山怜子先生

京都大学 工学部 物理工学科(工学研究科 機械理工学専攻)

出会いの一冊

流れ 自然が創り出す美しいパターン

フィリップ・ボール 訳:塩原通緒(早川書房)

自然の流れによって生み出される様々な模様とその仕組みについて紹介している本です。まずは、アート作品のように美しく可視化された流れの様子をじっくり観察してみてください。どのような原理でこれらの複雑な模様(雲の中の渦列や木星の大赤班など)が作り出されるのか、きっと知りたくなると思います。気になった写真や図の説明をつまみ読むだけでも楽しめます。

こんな研究で世界を変えよう!

特殊な蛍光分子で、髪の毛ほどの細い流れにかかる力を可視化する

流れや熱の伝わりは見える!

空気や水といった流体の流れは、はっきりとは見えません。また、流れの中で熱が伝わる様子や物質が混じりあう様子を直接見ることも困難です。

しかし、舞い散る桜の花びらや、お椀の中の味噌の動き、夏の暑い日にアスファルトから立ち上る陽炎などを通じて、流れや熱の伝わりを「見た」経験が皆さんにもあると思います。この場合、花びらや味噌の粒、空気中の屈折率の変化が目印となり、私たちの目に流れが見えるようになっているのです。

小さいスケールだから非接触に計測

私たちのグループでは、このような通常は見えない流れ現象や、その中の温度、濃度、粘度、応力などの情報を見えるようにする(=可視化する)ための研究を行っています。

研究対象は、髪の毛ほどの太さ(=約50ミクロン)の流れ場です。このような小さなスケールの流れは、例えば、毛細血管内の血液流れや、手のひらサイズの生化学分析装置として期待されるマイクロ流体デバイス(マイクロTASやLab-on-a-chip)、小型の熱交換器などで見られます。

非常に小さいスケールであるため、流れ場を乱す接触式のセンサを挿入することはできません。代わりに、流体に微量の蛍光分子を混ぜて、その光信号を利用して非接触に計測を行います。

力がかかれば変形し発光色が変わる

今取り組んでいるのは、流体の内部や流路の壁に「どのように力がかかっているか」を可視化する手法の開発です。力に応答して羽ばたくように変形する特殊な蛍光分子を使います。この分子は変形すると発光の色が変わるため、色の変化から流体内や壁面にかかる力を測れると考えられます。

この技術が実現すると、流体機械のどこに負荷が集中しているかを一目で把握したり、血管壁にどのような力がかかると病気になってしまうのかを理解したりするのに役立つと期待されます。

3cm四方のガラス板と透明なポリマーでできたマイクロ流体デバイス。中に幅100ミクロンほどの流路が形作られています。私たちは光を使って、この細い流路の中の流れや、熱・物質の移動の様子を可視化します。
3cm四方のガラス板と透明なポリマーでできたマイクロ流体デバイス。中に幅100ミクロンほどの流路が形作られています。私たちは光を使って、この細い流路の中の流れや、熱・物質の移動の様子を可視化します。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

大学の研究室配属で、「ミクロの世界は人類に残されたフロンティア」という紹介冊子のフレーズにつられ、微小領域の熱流体現象を扱う研究室を選びました。暗幕で覆われた光学実験ブースや風洞設備のある秘密基地のような実験室、装置を巧みに操る先輩達、聞いたこともない用語が飛び交うディスカッション風景などなど…全てが刺激に溢れ、気づけば研究中心の生活に浸かっていました。

大学時代についてはこちらもどうぞ→https://www.st.keio.ac.jp/departments/ob_relay/ob_1801.html

蛍光偏光測定の実験を行っている様子。自作の光学系や温度制御システムを顕微鏡に組み込んでオリジナルの装置を作り、温度や粘度などの可視化を行ってます。
蛍光偏光測定の実験を行っている様子。自作の光学系や温度制御システムを顕微鏡に組み込んでオリジナルの装置を作り、温度や粘度などの可視化を行ってます。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「流体応力場イメージングによる流体科学の基盤構築」

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毎年3月に研究室として参加している日本機械学会関西支部の講演会での1枚。学部4回生には1年間の集大成として卒業研究の内容で学会発表を経験してもらいます。
毎年3月に研究室として参加している日本機械学会関西支部の講演会での1枚。学部4回生には1年間の集大成として卒業研究の内容で学会発表を経験してもらいます。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先生の研究に挑戦しよう!

お家の中で熱流体実験にチャレンジしてみませんか?キッチンやリビングには魅力的な熱流体現象がたくさん隠れています。例えば「ベナール対流」で調べてみてください。フライパンと油、粉末スパイスなどを使ってどんな面白いパターンを作り出せるでしょうか?そのほかにも、熱いコーヒーの表面を覆う白い膜の動きや、こぼれたコーヒーが乾いた時のシミのでき方を観察してみましょう。

中高生におすすめ

鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋

鴻上尚史(朝日新聞出版)

作家・演出家の鴻上尚史さんが読者から寄せられる様々な悩みに回答していくスタイルの書籍です。日々の生活の中で違和感やモヤモヤを覚えるときに、新たな視点を得られるかもしれません。「自分なら何と回答するだろう?」と考えながら読むのもおすすめです。(同じ内容をAERA.dotのWeb連載でも読むことができます)

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

やっぱり工学…かもしれません。

Q2.感動した/印象に残っている映画は?

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

Q3.大学時代の部活・サークルは?

テニスサークル(比較的まじめな)

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

腸活。胃腸の弱さを克服するため日々実験中です。


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