コンピュータと人間の相互のかかわりを研究する小泉直也先生は、空中に浮かぶ立体像を創り出します。そのときこの映像と人とが同じ空間を共有し、SF、ファンタジー映画の中のような世界を現実に実現する――そんな夢のような技術を紹介します。
ファンタジー映画が目の当たりに!現実空間に浮かぶ空中像を開発
現実空間を彩る空中像の作り方
この映像は、現実の空間に妖精の映像が浮かんでいる空中像です。妖精を水の中からすくい上げたり、ひらひらと飛んだり、空中像と人とが同じ空間を共有できる仕組みです。
私は、こんなファンタジー映画でしか見たことのないような魔法の世界を実現する、空中像を作っています。
原理は簡単です。空中像を作るための何か光源があって、光源から光が出てきます。空中像を作るために、光学素子というものを使います。光は光学素子を通って、反射、屈折することである1点に交わります。そこに空中像が結ばれます。非常にシンプルな原理です。
空中像自体はすごく簡単に作れるのですが、一方でこの素子にはちょっと扱いにくい点があります。
1つは、迷光と呼ばれるような余計な光が出てしまうことです。もうひとつは空中像を見える範囲が光学素子のサイズと視点位置によって変わってしまうという点です。光学素子を扱いやすくする作り方を考える必要があります。
この映像は、私が作った花の空中像です。右側の映像は、実際の机の上に置いたクマの縫いぐるみの上を、ピンク色の花がふわふわ浮かんでします。
面白いのは、左側の映像です。こちらはCGで描かれたクマのぬいぐるみの上のほうで、空中像が浮かんでいます。
実はこの映像は、空中像を作る光学素子の特性をもとに、光の反射や屈折を計算して、どこにどのように空中像が結像するのかを映像として描きだして、作られているのです。もちろん、迷光や視域といったものも再現できているので、実際の光学素子の問題を確認することもできます。
この制作を通じて、CGの中に空中像を再現できるということがわかりました。
現実空間に浮かぶネコ、カエルの空中像
空中像の使い方はいろいろと広がっていきます。
例えば下の空中像は、ネコのキャラクターです。空中像のネコに、ネコじゃらしの棒を近づけると、ネコが棒に飛びついたり、キャッチしそこねたり、アニメキャラのような滑稽な動きをします。センサをうまく組み合わせる空中像のキャラクターとこのように触れ合って遊ぶことができるようになりました。
他にも、空中像を日常空間に置くなんてこともできるかもしれません。下の映像は、机の上に白い馬の空中像を表示している様子です。
室内だけでなく、空中像を屋外にも浮かび上がらせることもできます。晴れた日に太陽の光を取り込んで、地球がふわふわ浮かぶ空中像を作りました。
雨の日、地面が濡れた時に、反射面にアマガエルの空中像を出す、というようなこともできます。このようにいろんな空中像の使い方を私は考えています。
様々な空中像の技術を使って、こういうものを作りたいっていう未来を描いてもらえたらいいなと思っています。
◆先生は研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。
僕はバーチャルリアリティや、ヒューマンコンピュータインタラクションという分野の中でも、空中像というテーマに取り組んでいます。僕がこの研究を始める前に、近くにいた人が同じような研究をしていました。これが面白そうだったので一緒に研究をしてみると、次々とやってみたいことが思いつき、いくつもの課題があることがわかりました。コツコツとそれらの研究に一つ一つ取り組んでいるうちに、空中像の研究にのめり込んでいました。最初は誰かと一緒にやってみて、その中で自分が面白いと思ったことを、続けてみるというやり方もいいのかなと思います。
◆先生の研究室の卒業生は、どんな仕事についていますか。
研究室の修了生・卒業生は、情報学関係の仕事についています。具体的には、電気系メーカーや通信系企業、ゲーム会社などに進んでいます。研究所に就職した人は現在も空中像の研究に携わっており、学会で受賞もしているようです。いまは卒業生というより、研究に刺激を与えてくれる良きライバルだと思っており、頼もしく思っています。
日本バーチャルリアリティ学会誌
日本バーチャルリアリティ学会 学会誌編集委員会
これは、日本バーチャルリアリティ学会が出している雑誌です。web上で無料で読めます。バーチャルリアリティに関する様々なトピックについて特集記事が載っており、専門書や論文よりも読みやすい記事が多数掲載されています。大学院生を中心に留学体験をかいた記事や、バーチャルリアリティに取り組む研究室の紹介記事などもあり、進学して研究室に入るイメージが湧いてくると思います。
[無料公開されている記事はこちらから]
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jvrsj/-char/ja