人間の脳の情報処理を解明するため、脳を情報処理機械に見立てて、その機能を調べるという脳研究を「計算論的神経科学」といいます。そうして得た脳の計算理論をヒントに、これまでにいない情報処理の理論を提案しようとしています。
私は計算論的神経科学を専門に、神経細胞の数理モデルで脳の謎に挑んでいます。特に追及しているのは、刺激に対する神経細胞の信号応答を一定の規則に従ってデータ化する、情報の符号化です。神経細胞の応答のルールを明らかにして、脳の情報処理における重要性を明らかにします。動物は外界からの入力に対して複雑な応答を示す場合があります。この応答が神経ネットワークの情報処理において、重要な意味を持つと考えています。
人工知能にも応用
今、囲碁や将棋のプロ対決などで注目を浴びているディープラーニング(深層学習)はニューラルネットワーク(脳の神経細胞のつながりをモデル化)を利用した人工知能ですが、個々の神経細胞の性質まで考慮されていません。そこを補い、神経細胞のふるまいも考慮して神経ネットワークを考えると、認識能力が高く、より高度な情報処理システムができると考えています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→製造業、情報・通信
- ●主な職種は→システムエンジニア
- ●業務の特徴は→様々な業種を支えるシステムのソフトウェアの開発
分野はどう活かされる?
ソフトウェア開発に係わる人が多いこと。中には、ニューラルネットワークの理論を応用したシステムの開発をしている人もいます。
脳科学研究のすそ野は広く、多くの分野の研究者がそれぞれの視点で研究を進めています。工学分野からは、数式や計算機を駆使して、一つのまとまった理論を構築しようという努力が続けられています。世界中の研究者が参加して、この難問を解決しようとしています。ディープラーニングに代表される人工知能がいろいろな方面で注目され、多くの問題が解決されたかのような印象がありますが、ゴールははるか彼方で、これから勉強する方にもその面白みを味わう余地が十分に残されています。ぜひ脳の情報処理とはどうなっているか考えてみてください。
人間知能システム工学専攻は、動物を対象としている研究者から、電子デバイス、そしてロボティクスの研究者が一専攻に共存している特色のある専攻です。また、脳の研究者とロボットの研究者を理論家が橋渡しをしています。これらがつながることで、カーエレクトロニクスや福祉ロボットなどへの応用も見据えていて、将来性のある専攻だと思います。

興味がわいたら~先生おすすめ本
進化しすぎた脳 中高生と語る[大脳生理学]の最前線
池谷裕二
受験勉強で暗記に苦労しているなら、人の記憶がどのようなものかを理解してみるのも面白いだろう。この本は、高校生への脳科学の授業の書籍化で、読みやすい。記憶があいまいなのはなぜかなど、身近なギモンにも答えてくれる。人の記憶のしくみとコンピュータの記憶方式と比較して考えてみるのもよいだろう。脳の記憶のしくみをヒントに作られたニューラルネットワークの理論が人工知能を発展させた。この分野を学ぶなら、本物の脳がどのように情報処理をするか知ってほしい。付録には、行列を使った記憶シミュレーションの簡単な理論モデルも紹介されている。 (ブルーバックス)
電子ホタルの同期現象
東京理科大学池口研究室が行った、ホタルの発光の同期実験。電子回路で模擬した電子ホタルを22個作成して行った。他にも面白い実験をネット上で公開している。