考古学

水中ロボットを使って琵琶湖底深くの湖底遺跡を調査する


矢野健一 先生

立命館大学 文学部 人文学科 日本史研究学域/文学研究科 行動文化情報学専攻

どんなことを研究していますか?

考古学の発掘と聞くと、自分の手で地道に土を掘り進めていくようなイメージを持つ人も多いかもしれませんが、現代のテクノロジーの力を借りることで、これまでは調査が困難だった場所にも到達することができます。

私はロボット工学の専門家と共同で研究を行い、水中ロボットの力を借りることで、水深70mを超える琵琶湖北部の葛籠尾崎(つづらおざき)湖底遺跡の調査を行っています。また、地質学の専門家と共同で、琵琶湖の湖底深くに土器が水没した理由を解明するための調査を行っています。

考古学は土を掘って、古い時代の遺跡や化石を発掘するだけではなく、海底の沈没船や、第二次世界大戦の軍事基地といった新しい時代の調査もしています。考古学の研究方法は世界共通なので、世界中の現代遺跡の発掘調査ができるのも考古学の魅力です。

3000年間におよぶ地中の遺跡の状態を再現展示

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葛籠尾崎湖底遺跡が存在する滋賀県北部の米原市の杉沢遺跡も、毎年調査しています。この遺跡は縄文時代終わり頃(約3000年前)の墓が多く見つかっている遺跡ですが、ここでは縄文時代以降もずっと人間の活動が続いています。現在も遺跡の上に集落があり、人々が生活を続けています。

地表直下には3000年間に及ぶ生活の痕跡を示す土器片などの遺物が地中に数多く存在しますが、発掘して取り上げてしまえば、地中の状態を見ることはできません。そこで、地中に埋まった遺物の位置を一つ一つ記録してとりあげ、その状態を正確に空中に再現して、3000年間の地中内部の遺跡の状態を展示しています。私たちが生活している地上の現在と、縄文時代以来の地中の過去が、まさに地続きであることが体験できます。

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杉沢遺跡の地中を再現した展示の様子

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→公務員(文化財専門職)、博物館
  • ●主な職種は→発掘調査員、学芸員
  • ●業務の特徴は→遺跡の発掘調査をしたり、出土品を分析・研究し、地域の文化財を保護・活用する仕事
分野はどう活かされる?

考古学の知識を生かして、遺跡を調査し、地域の歴史・文化を明らかにし、人類の歴史・文化のなかに位置付ける仕事をしている人もいます。世界遺産登録にも深くかかわる仕事です。

先生から、ひとこと

考古学は時代や地域を問いません。発掘や研究の手法を学べば、どんな時代や地域にも応用できるので、世界中の遺跡を調査したり研究したりすることができます。考古学で世界を知ることができます。

先生の学部・学科はどんなとこ

立命館大学文学部考古学・文化遺産専攻は、教員4人が分担して旧石器時代から現代まですべての時代の考古学を教えていますので、好きな時代の考古学を選択することが可能です。1学年30-40人で、大学院生を含めると総勢150人ほどの学生を抱えており、研究会や展覧会など、活発に行っています。毎年、夏季休暇時には授業で発掘を行っており、学生が参加できます。韓国国立伝統文化大学校と協定を結んでおり、韓国での発掘に参加することも可能です。

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米原市杉沢遺跡を発掘した学生たちと宿舎の前で

先生の研究に挑戦しよう

自分が住んでいる近くの遺跡や史跡を調べてみましょう。遺跡や史跡をたどり、地域の歴史を調べて、自分の住んでいるところがどのように移り変わってきたか、年表にまとめてみるのもいいでしょう。

考古学は物の研究が大事な分野です。興味のある物を取り上げ、時代によってどのように変化してきたのかを調べてみましょう。例えば、自動車や列車の外形が、古い型から新しい型に変化していく様子を細かく調べると、物の変化が秩序だったものであることを理解できます。考古学では、物が秩序だった変化を示すことを手掛かりにして、逆に形の差から物の新旧を序列化していくことがあります。

興味がわいたら~先生おすすめ本

環境考古学への招待 発掘からわかる食・トイレ・戦争

松井章

遺跡から出土する動物の骨や植物の種などを研究すると、昔の人の食生活もわかる。古代の便所を発掘すると、寄生虫の卵なども発掘され、川魚を刺身で食べていたことも推測できる。考古学の中でも、特に動物や植物など人間のまわりの自然環境と関わる分野を環境考古学と呼ぶ。著者は骨の専門家なので、人骨についた傷あとから戦闘の様子を生々しく再現する様が語られる。物的証拠を扱う考古学が、警察の鑑識のような仕事に近いこともよくわかるだろう。著者の体験談を中心に説得力を持って語られて興味深い。 (岩波新書)


日本人の起源 人類誕生から縄文・弥生へ

中橋孝博

人類の誕生から日本人のルーツまで、人骨の研究からわかる人類の歴史を、研究の歴史を振り返りながら解説する良書。 (講談社学術文庫)


人口から読む日本の歴史

鬼頭宏

縄文時代から現代までを人口という視点から解説した著書。歴史の教科書では人口についてあまり触れられることはないが、歴史を考えるうえで、人口を考慮することは不可欠。 (講談社学術文庫)


考現学入門

今和次郎

女性の髪形の統計をとったり、学生の下宿の持ち物を調査したり、昭和初期の風俗・生活の断片的な調査を記録したのが「考現学」。著者は、古い物を調べる考古学に対抗して、新しい物を調べる考現学を提唱した。「物」にこだわることで、生活・文化の瞬間が切り取られ、私たちに紹介される。 (藤森照信:編/ちくま文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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