船舶海洋工学

深海に眠る資源を安全に採取し、海から自然エネルギーや真水を取り出す技術の開発


西佳樹 先生

横浜国立大学 理工学部 機械・材料・海洋系学科 海洋空間のシステムデザイン教育プログラム/理工学府 機械・材料・海洋系工学専攻

どんなことを研究していますか?

海底には石油・天然ガスなどの有用資源が膨大に埋蔵されています。深海に眠るこの資源を取り出し、洋上へ運ぶために、数千メートルに及ぶ長大なパイプが海中に設置されています。しかし、海中には常に海水の流れがあり、パイプはその流れにさらされて振動します。それが長期間続くとパイプが劣化し、場合によっては破損します。パイプの中には石油・天然ガスが流れていますから、この破損が、多種多様な生命を育む海洋環境に与える影響は非常に甚大であると想像できます。

その「想像」を、もっと信頼できる「推測」に変えることが、私たちの研究室の最大ミッションです。この課題を全面的に解決するには、多数の小課題を解決しなくてはなりません。例えば、海水中を漂う人工物質が海洋生物に与える影響の解明(海洋環境リスクの評価法の確立)、パイプの振動シミュレーション、海流速度分布の推定などがあります。

海中パイプの振動を利用した発電

image

また、海水の流れからエネルギーを取り出し、電気エネルギーを得る技術に関する研究を行っています。海には常に流れがあります。その流れが持つエネルギーを、先述したパイプの振動を逆に利用して発電を行う方法です。この研究を通じて、化石燃料を一辺倒に消費する社会から脱却するために貢献したいと思っております。

海水の淡水化技術にも取り組んでいます。海水から塩分を取り除くと、飲料や灌漑などに使える「水」を生産できます。化石燃料を消費して海水を蒸発させるか、半透膜に浸透させる方法が主流ですが、主として太陽熱を効率よく集め真水を作る、新しい淡水浄化装置の設計を目指しています。これらの研究の進展は、豊かな海洋資源を有効活用し、私たちの生活に必要なエネルギーを途切れることなく循環させる社会を実現させるものとなるでしょう。

image

冬季、北海道のサロマ湖の表面は氷に覆われます。その氷の内部や直下の海水の生物量、化学物質等を測定しました。その計測作業が一通り終わり、スノーモービルで遊んでいるところ

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→重工業、プラント、自動車
  • ●主な職種は→エンジニア
  • ●業務の特徴は→海外で活躍
分野はどう活かされる?

環境に配慮したプラント設計、自動車設計など

先生から、ひとこと

私たちが取り組んでいる海洋環境リスクの評価法を作るには、大学での科目名でいうところの流体力学/海洋物理学/生態学/確率論/制御理論などを同時に使いこなすことが必要です。高校で習う数学/物理/化学/生物/地学などに含まれる複数の分野が関与しています。分野を横断した研究を進めている点が私たちの研究グループの特徴です。

先生の研究に挑戦しよう

流れや波を小さい水槽で発生させて、そこに発電機を仕込んで、自然エネルギーとはどういうものかを調べる実験など。

興味がわいたら~先生おすすめ本

北極大変動 加速する氷解/資源ビジネスの野望

NHK「北極大変動」取材班

北極域における氷の融解と資源開発について特集したNHKスペシャルの内容を、読みやすくまとめてある。前半では氷が解けることによる様々な影響を、後半では北極海での資源をめぐる近況について記しており、海洋環境、海洋資源という分野に密接に関係する内容だ。資源を獲得することと、地球環境を保全することの両者をどう折り合いをつけて進めていくのか、それを考えさせられる良著。深い海の底には多くの化石燃料が眠っており、それを取り出すために駆使されている高度な技術も知ることができる。資源と環境、片方を重視することは難しいが、最適解を見つけられるのかという視点で読んでみてほしい。 (NHK出版)


エコロジー的思考のすすめ 思考の技術

立花隆

環境問題と呼ばれるような問題には、多数の要因が絡み合っている。その問題の解決のためには、それらの要因の関係を把握し、問題全体を見渡せる視点で理解することが必要で重要であること説いている。海洋のような総合的に考えることが必要な学問分野において、重要な考え方が明快に提示されている。 (中公新書)


宇宙からの帰還

立花隆

人類を月に到達させるために米国が技術の粋を尽くした「アポロ計画」と、それに携わった数々の宇宙飛行士の精神の変遷に焦点が当てられている。宇宙に行く前と行った後とで、宇宙飛行士の心の中で変わるものと変わらないものがある。未踏の地を目指した人の心理変化を浮き彫りにしている。技術の最先端にいる人が、何を思っているのかを知ることができる貴重な本だ。 (中公新書)


愛すること、生きること 全訳『愛と心理療法』

スコット・ペック

アメリカの心理療法家、精神科医である著者。「愛」という一見つかみどころのないものに明確な定義を与えることで、自分の成長のために具体的な行動を起こしていくことを強調している本。人間関係で悩んだときに過剰に悩まずに、とりあえず一歩前進する勇気や指針を与えられる本。 (原寛、矢野隆子:訳/創元社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

みらいぶっくへ ようこそ ふとした本との出会いやあなたの関心から学問・大学をみつけるサイトです。
TOPページへ