金属物性・材料

マグネシウム研究のメッカ・熊大で、画期的なマグネシウムを発見!


河村能人 先生

熊本大学 工学部 材料・応用化学科 物質材料工学教育プログラム/自然科学教育部 材料・応用化学専攻 物質材料工学教育プログラム/先進マグネシウム国際研究センター

どんなことを研究していますか?

マグネシウムは実用されている金属の中で、もっとも軽く、地球上に豊富に存在しています。人体や環境に対してもやさしく、リサイクル利用にもすぐれた金属材料です。ただしアルミニウム合金にくらべ強度の点で劣り、腐食しやすく燃えやすいという弱点がありました。私たちはこの3つの弱点を克服し、従来にない革新的なマグネシウム合金の開発に成功し、「KUMADAIマグネシウム合金」と名づけました。

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KUMADAIマグネシウム合金には、耐熱合金と不燃合金の2種類があります。最初に高強度で耐熱性と難燃性を併せ持つKUMADAI耐熱マグネシウム合金を開発しました。この合金は長周期積層構造(LPSO構造)という新奇な原子配列構造を持つことが特徴であることからLPSO型マグネシウム合金とも呼ばれており、その強さはアルミ合金に匹敵し、250℃の高温でも優れた機械的特性を持っています。また、LPSO構造において「キンク強化」という新しい材料強化法を約半世紀ぶりに発見しました。続いて高強度で不燃性と高耐食性を併せ持つKUMADAI不燃マグネシウムを開発しました。この合金は、C36型の金属間化合物が特徴であることからC36型マグネシウム合金とも呼ばれており、その強さはアルミ合金に匹敵し、まったく燃えないという優れた性質を持っています。不燃性のマグネシウム合金を世界で初めて開発することができました。

私は、2011年に開設された熊本大学先進マグネシウム国際研究センターのセンター長を務め、この新しい材料の基礎研究を進めてきました。マグネシウム合金は、21世紀の軽量化構造材料として世界中で開発にしのぎを削っています。その中でKUMADAIマグネシウム合金は、次世代の軽量構造材料への革新的展開につながることが期待されます。

また同時にLPSO型マグネシウム合金の応用研究にも取り組んでいます。それによって航空機や自動車等の輸送機器の軽量化を図ることができ、輸送機器の高性能化、燃費向上による省エネルギー、CO2排出抑制によって環境への負荷を下げることに貢献することができます。

マグネシウムの生体親和性と生体吸収性を医療に活かす

マグネシウムの生体親和性と生体吸収性を生かした次世代医療機器への応用研究を進めています。欧米に独占されている医療機器用材料を国内で生産することによって、我が国の医療機器産業の発展に貢献することができます。

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熊本大学先進マグネシウム国際研究センターの実験室にて

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→材料を作る企業(鉄鋼メーカー、軽金属メーカーなど)と材料を使う企業(重工メーカー、自動車メーカーなど)
  • ●主な職種は→研究開発部門と生産技術部門
  • ●業務の特徴は→金属材料の知識を活かした業務
分野はどう活かされる?

スポーツカー(F1)の開発の材料担当、自動車会社の研究開発部門での新材料開発担当、素材メーカーの研究開発部門での材料研究担当らが、金属材料の知識を活かして働いています。

先生から、ひとこと

知の最先端を走るということを学生時代に学んで欲しいと思っています。大学や大学院で成長するためには、人的環境と物質的環境ならびに学生自身の資質の3つが必要不可欠です。人的・物質的に優れた研究環境は我々が整えます。後は君たちの主体性・向上心・忍耐力・誠実さ・素直さがあれば、一流の研究者や技術者に育ちます。

先生の学部・学科はどんなとこ

マグネシウムを中心とした材料工学研究は、熊本大学の工学分野の強み・特色となっています。マグネシウムの研究を主導しているのが、先進マグネシウム国際研究センターであり、工学部の材料・応用化学科の物質材料工学教育プログラムの教育も担っています。物質材料工学教育プログラムでは、実験科目を多く取り入れていることに特徴があり、JABEEの認定も受けています。また、先進マグネシウム国際研究センターと連携して、世界トップクラスの研究環境(施設と設備)で卒業研究や大学院研究が行われており、国内外の一流の大学や企業との交流も盛んです。

先生の研究に挑戦しよう

(1)マグネシウム、アルミニウム、チタンが主な軽金属材料です。これらの軽金属材料と鉄を同じ大きさにして、その重さを比較してみてください。
(2)安全を確保したうえで、ひとつまみ程度の少量のマグネシウムの切粉に火を着けてみてください。水分があると水素爆発が起きるので注水は厳禁です。

興味がわいたら~先生おすすめ本

実用段階に入った日本発の新合金 LPSO型マグネシウム合金の材料科学

河村能人:代表編著

熊本大学が開発したKUMADAI耐熱マグネシウム合金の強化の源である長周期積層構造(LPSO構造)に関するプロジェクト研究の成果を書籍化。新奇なLPSO構造や半世紀ぶりに発見された新規な材料強化法(キンク強化)について、全国の27研究機関の59名の研究者で実施したプロジェクトの研究成果がわかりやすく書かれている。また、KUMADAI耐熱マグネシウム合金(LPSO型マグネシウム合金)の概要や熊本大学先進マグネシウム国際研究センターの紹介もあり、KUMADAI耐熱マグネシウム合金を理解するには最適な本となっている。 (日経BPコンサルティング)


創造の源流 2015年版 社会を変えるイノベーション

豊橋技術科学大学:編

豊橋技術科学大学の博士養成プログラムの一環として行われた特別講演の書籍化。ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生、プリウスを開発したトヨタ自動車など、世界規模の産業を支える技術の創出に貢献した技術者、科学者や研究者、産業人など9名が収められている。「イノベーションがあれば社会が変わる」という実例を示しており、科学を追及する研究者、技術を持って産業に貢献しようとする技術者を目指す高校生が、研究者や技術者を理解するのに役に立つ本である。金属物性・材料の研究分野と関連しては、先進マグネシウム合金についての講演が掲載。大学・大学院でいかに学ぶかについても触れている。 (日経BPコンサルティング)


ニッポンの素材力

泉谷渉

オバマ前米大統領政権下のニューディール政策推進で爆裂すると予想されるニッポンの新素材の現状と展望をまとめた。環境・エネルギー分野の新素材を最も得意とする日本メーカーの活躍ぶりが描かれており、材料の研究者や技術者を目指す高校生が、産業における新材料開発の重要性を理解するのに役立つ本である。自動車、航空機の革命を起こす新材料として「LPSO型マグネシウム合金」のことが14頁にわたって紹介されている。 (東洋経済新報社)


研究過程論

田中一

研究者が研究を進めるにあたり、知っておきたい論文のスキルや研究のノウハウを、理系研究者ならではの視点で解説しており、研究者の卵のための研究ガイダンスである。研究過程に沿った形で話題が進められており、各行程における課題が明らかにされている。また、研究者の成長も「研究過程論」に基づいて述べられており、卒業論文・修士論文・博士論文に求められる指標が明示されている。 (北海道大学出版会)


サイエンテイストゲーム 成功への道

カール・J.シンダーマン

原書は"Winning the Games Scientists Play"、アメリカの科学者によるものだ。科学の分野で優れた業績を上げるためには、対人関係を重視しそのスキルを磨くことの重要性をゲームに例えて解説している。本書の発行は1982年と古いものだが、現代にも通用する記述も多い。科学者は研究の道だけを突き進むことは難しく、希望する研究を行うためにはどのようなスキルが必要なのかを考えるきっかけを与えてくれる。科学のゲームプレイヤーのトレーニング用手引書となることを意図して書かれたものであり、理工系の学部で卒業研究に着手した学生や大学院の修士課程の学生には「必読の書」である。 (山崎昶:訳/学会出版センター)


科学の喜び 成功するサイエンティスト

カール・J.シンダーマン

原書は"The Joy of Science, Excellence and its Rewards"。『サイエンテイストゲーム 成功への道』と同じアメリカの科学者によるものであり、互いに相補うものである。科学者の生態学が述べられており、科学での成功につながるものは何であるか、科学の実践における喜びにつながるものは何であるかについて論じている、科学者の人生案内書である。大学院博士課程の学生や学位を取り立ての若手研究者には「必読の書」である。 (山本祐靖、小林俊一:共訳/丸善)


大学1、2年生の間にやっておきたいこと 学就BOOK 改訂第4版

日経HR編集部

人生のうちで一番自由にやりたいことに打ち込める貴重な時期である大学時代を無駄にしないように、目的をもって学生生活を送ってほしいという思いを込めて作成された本である。大学1・2年生が、充実した学生生活を送り、社会に役立つ人材に育つための参考書である。成長意欲のポイントや学生基礎力のポイント、学生生活の充実度アップのポイント、社会人として必要な力が論じられている。特に、大学院生や社会人に対して行われた、「学生時代にやっておいて良かったこと」と「学生時代にやっておけば良かったこと」に関するアンケート調査の結果を基に、後悔しない学生生活の送り方が論じられている。また、これまでの夢、大学生の夢、社会人の夢の3つで構成される「夢ノート」の作成を通して、「これまでの自分」と「こうありたい自分」をはっきりと理解して、学生生活の目的が自覚できるような工夫もなされている。 (日経HR)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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