音声で検索できる技術が急速に浸透しています。複数の話者の声、背景の雑音の混じった混合音環境の中で、機器が特定の音声を聞き分ける音響センサ技術の発達が、音声検索を支えています。大勢の声が混ざった音から一人一人の声に分離する、ブラインド信号処理という技術が盛んに研究されてきました。ブラインド信号処理の基礎的な研究は、ほぼ山場を越えて、音声の分野だけでなく、画像、医療、通信など多くの分野での応用が盛んに行われています。
人間の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)などに関係する「計測工学」について研究しています。私は、特に音にこだわっています。生き物にとって音の情報は、餌の捕獲や外敵からの回避などのために重要です。人間は、言葉を操り、音楽に癒され、音を活かすことができます。音を探求することは生活を豊かにすることにつながります。そこで、臨場感溢れる立体音場再現、ロボットのための音響センシング、重なった音声の分離、超音波スピーカの制御、音によるシジミ貝の良否判別などに取り組んでいます。
オーケストラの楽器音一つ一つを分離
重なり合った信号を分離する技術により、音響の分野では、音声認識率が飛躍的に向上します。オーケストラの楽器一つ一つを分離することができれば、各楽器音にコンサートホールの特徴を加味することによって、世界中のコンサートホールでの演奏をバーチャルに聞くことができるでしょう。
また、医療分野では、雑音が多い医療データから健康に関する情報だけを取り出すことが可能となり、的確にかつ迅速に診断を下すための強力なツールとなることが期待されます。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→電機メーカー、IT企業など
- ●主な職種は→SE(システムエンジニア)、エレクトロニクスエンジニアなど
- ●業務の特徴は→ソフトウェア開発、ハードウェア開発など
分野はどう活かされる?
テレビ会議室システムの開発では、音響エコーや雑音の除去などに研究が活かされています。様々なソフトウェア開発やハードウェアの開発や、さらに最近は組み込み系の需要が多く、研究室でのマイコンを使った研究も活かされています。
もともと大学ではロボット工学を学びたかったのですが、たまたま騒音計測の研究室に配属され、非常に論理的な恩師の元で、教科書に載っている平均・分散だけではなく、「高次統計量」という珍しい(?)統計量を使った信号処理や計測法を研究しました。
当時、その研究が社会に役に立つとは全く思っていませんでした。ではなぜ続けることができたかというと、自分にとって面白かったから。本当に面白かったのです。ただ心の中ではロボット研究に携わりたいという思いをいつも持ち続けていました。本来自身がしたかったことと外れたその頃の知識が、今になって役に立っています。
若い人は夢を持ち続けてほしいと思います。もし違った分野に進んでも夢を持ち続けて努力していれば、その夢に関係する分野に必ず繋がります。
近畿大学の建学の精神は、「実学教育」と「人格の陶冶(とうや)」であり、創立者である世耕弘一先生が唱えられた、「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人の育成」を、教育の目的としています。近大マグロは「実学教育」の好例です。
生物理工学部は、理学・農学・工学・医学の4分野を融合して、生物が持つ優れた機能とメカニズムを研究・解明し、暮らしや環境に役立つテクノロジーの開発を目標としています。私は、IT分野のうち、特に音響技術やセンシング技術で社会に役立つ技術者・研究者の育成を目指しています。
興味がわいたら~先生おすすめ本
持ちつ持たれつ 生き物とコンピュータ
生き物と科学技術の会:編
近畿大学生物理工学部の先生たちが、目、耳、多重音声の認識、脳、電気と生き物、マルチメディア、コンピュータ、ヒューマンインターフェイスを話題に執筆。小学生高学年から大学生、社会人までを対象に面白く解説している。例えば、3章「聖徳太子風コンピュータ」では、中迫昇先生が、重なり合った信号を分離する技術である「ブラインド信号処理」について、先生が開発した手法を中心にわかりやすく説明した。姉妹書の『持ちつ持たれつ 生き物とエレクトロニクス』と併せて読めば、さらに理解が深まるだろう。 (電気書院)