環境動態解析

過去の海水温度、二酸化炭素濃度を復元する「古環境」研究~現代の環境問題に生かす


堀川恵司 先生

富山大学 理学部 自然環境科学科/理工学研究科 理工学専攻

どんなことを研究していますか?

過去の地球の環境状態は、地層中に残された有機物や微化石などの化学分析によって明らかにできます。サンゴや貝などは、殻を形成する時に海水中の元素を殻内部に取り込むため、地層から出てきた貝などの殻内部の元素分析や、酸素やホウ素などの同位体分析をすることで、過去の海水温や大気中の二酸化炭素濃度など重要な環境情報を復元することができます。過去の環境を対象にした環境問題の研究は、気候・古環境分野と呼ばれています。

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私はこうした情報などをもとに、過去の地球環境変動期の地球環境の状態を明らかにしようとしています。もし、過去の海水温や塩分を全球規模で明らかにできれば、その当時の全球規模の気候状態をコンピューター上で再現することができます。当時の水温や塩分だけではなく、海底堆積物から分析される様々な化学データがあれば、気候モデルを使い、過去に起こった急激な温暖化に対して、地球全域へどのような影響があったのか、客観的なデータで評価ができるようになります。

過去の環境指標データを、もっと高精度に

ただし、海底堆積物から引き出せる当時の環境情報は、まだまだ不確かな点も多く、これらのデータをより確度の高いデータとしなければなりません。そこで私たちは、水温や塩分などの間接指標の開発や高精度化を目指し、研究を進めています。

過去に起こった現象の原因や影響を詳細に把握することは、将来の温暖化によって生じる様々な環境影響を考える上で最も重要な示唆を与えます。確度の高い科学的データは、社会の環境マインドを正しい方向へ導くために必要な情報であり、正しい環境政策を実施することにつながると思います。

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研究室にて

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→建築土木業界、教育、機器メーカー
  • ●主な職種は→土木コンサルや技術職、化学分析業務、高校教員
  • ●業務の特徴は→環境分析調査、理科教員
分野はどう活かされる?

多くの学生は、1-2ヶ月ほど研究船に乗り海洋堆積物試料や海洋生物などの試料を採取し、研究室でそれらの試料の化学分析をして、データの解析を行い、卒業研究や修士研究をまとめています。そのため、研究で培った現場調査と室内実験などの知識・技能、データ解析能力を活かせる環境分析調査を専門とする企業で働いている卒業生が多いです。

先生から、ひとこと

堆積物や微化石の化学的な分析を通して、過去の環境情報を復元する研究を行なっています。まだまだいろいろな発見もあり、今後も社会に大いに貢献できる分野だと思います。

先生の学部・学科はどんなとこ

富山大学理学部生物圏環境科学科では、生物・化学・地学を相互に関連づけながら、環境科学に関する教育や研究を行っています。

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オーストラリア沖の海面表層や海底堆積物の調査を行った学術研究船白鳳丸にて。一番右が堀川先生

先生の研究に挑戦しよう

貝や珊瑚、プランクトンなどの海洋酸性化ストレスを調べる実験
生物の海洋酸化に対するストレスは生物種毎に違うと言われているため、水槽等に生物を飼育し、海水のpHを変えて酸性化ストレスを与え、個々の生物種の成長・生育にどのような影響が出るか観察してみよう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る

大河内直彦

地球史・地球化学分野で国際的に活躍し、多くの研究論文を執筆している日本を代表する有機地球化学者による著書。地球科学でおさえておきたい重要な問題や定説を、その歴史的背景などを交えてドラマチックにストーリー立てて解説している。読みやすい文章で飽きない。これを読むと、地球科学のスケール感に圧倒され、化学分析の有用さに感嘆する。 (岩波現代文庫)


時を刻む湖 7万枚の地層に挑んだ科学者たち

中川毅

現在、国際的に最も有名な日本の湖、水月湖。水月湖で採取された湖の堆積物から、国際的な研究成果が生まれる過程をわかりやすく説明している。堆積物を使った華麗な研究に感動し、また研究に必要なのは忍耐力なのだと痛感する。 (岩波科学ライブラリー)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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