熱工学

無駄に廃棄された80℃以下の低温熱源を回収し再利用せよ


濱本芳徳 先生

九州大学 工学部 機械工学科/工学府 機械工学専攻

どんなことを研究していますか?

発電所にせよ車のエンジンにせよ、化石燃料などは燃やされて熱エネルギーに変換され、それが機械の運動エネルギーや電気など有用なエネルギーに変わります。ただし利用後は、再利用しにくい低温の熱源となって大気に放出されています。この無駄に廃棄された低温熱源をどうすれば活用できるでしょうか。

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私は、乾燥剤のシリカゲルなど固体の吸着剤を用いた、吸着式冷熱供給システムを開発しています。シリカゲルをビルなどの冷却水装置で冷やしながら、蒸気をシリカゲルに吸着させると、気化熱分の冷熱が生じます。時間が経つとシリカゲルの吸着は止まります。その時低温排熱を使ってシリカゲルを加熱すると、再び吸着しはじめ、また冷熱を外部に取り出せます。シリカゲルは80℃ 以下の低温でも脱着してくれるため、低温排熱利用に適した材料なのです。その性質を利用し、冷熱発生の循環装置を作ることができました。これまで無駄に廃棄されていた低温熱源が活用でき、省電力化に貢献すると考えています。

スマートエネルギー利用の植物工場

最近では気化熱を吸着させる省電力の技術を、植物工場の環境制御に応用したエネルギー利用システムの構築に取り組んでいます。このシステムは、植物を栽培する栽培槽と、太陽熱エネルギーを集めるバルーン型太陽集熱器、集めた熱エネルギーで植物の環境制御に使う冷温熱を発生させる冷温熱供給システムから成っています。つまり電力を極力使用しないスマートエネルギー利用型の植物工場です。

ところで、太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーから電気を作って利用するためには、余った電気をそのまま貯める蓄電技術が重要ですが、コストや大きさの面で解決課題が多いのが現状です。そこで、エネルギー損失は避けられませんが水電解で水素を作って貯めることが考えられています。私は、吸着によく似た現象で水素の吸蔵現象に着目し、水素吸蔵材料内の熱と物質移動に関する研究、例えば低温排熱を利用して水素の放出を促進させる研究も行っています。水素エネルギーを利用する際に、水素を素早く貯蔵・供給できるようになると利便性が上がり、水素エネルギーの普及が期待できます。

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実験準備

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→製造業、サービス業
  • ●主な職種は→設計、開発、研究
  • ●業務の特徴は→重工業、自動車、製鉄、エネルギー供給など
分野はどう活かされる?

ボイラの設計、発電プラントの設計、製品の温度管理システムなど、機械装置の、特に熱や流体が関係する製品やシステムの設計・開発を行っているようです。

先生から、ひとこと

温度の低い熱エネルギーは、エネルギーの多くが変換過程で行きつく最終形態です。質が低く、扱いにくい面がありますが、新しい材料や物理・化学現象をうまく活用して、少しでも多くの熱を利用し尽くす方法を一緒に考え続けませんか。

先生の学部・学科はどんなとこ

本学科では、材料・機械・流体・熱の4つの力学に加えて設計・工作、数理・システムを基礎とした理論を学びながら、ものづくりの実学も重視した教育・研究が行われています。その中で熱工学分野では、火力発電やエアコン空調などの熱エネルギーの変換機器、マイクロ・ナノサイズや超親水・超撥水性を有する特殊な表面環境領域、生物学と医学との境界領域など様々な先端領域や技術における、熱と物質の移動の促進と制御に関する研究が行われています。

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実験準備

先生の研究に挑戦しよう

・エネルギーの変換過程における、エネルギー量の損失分析
高校の物理で位置エネルギーを熱エネルギーに変換する話が出てきたと思います。ジュールは、実験により熱と仕事は等しいものであることを示し、両者の関係を調べました。1kgの水を1℃上昇させるためのエネルギーは約4.2kJでした。実際に類似の装置を自作して、実験を行ってみてはどうでしょうか。エネルギーは水に損失なく伝わるでしょうか。水以外の周囲にどのくらい失われるでしょうか。水を入れた容器の温度も上がりましたか。次に電気ヒータを使って水の温度を上げたら、電力消費分のエネルギーは水に伝わり、温度上昇するでしょうか。周囲にどのくらい熱が失われるでしょうか。

・お湯が沸くまでの観察
ビーカーに水を入れて下から加熱していると、水がゆらゆらしてきて、なんとなく流れが生じているように見えて、やがてビーカーの底面から気泡が生じます。水に何が起きてそのような変化が現れるのか、考えてみましょう。(実験の際は、安全に注意してください。)

興味がわいたら~先生おすすめ本

ヒートポンプがわかる本

飛原英治ほか

冷蔵庫やエアコンのない生活なんて考えられない? その仕組みは、ヒートポンプという装置。低温から高温に熱エネルギーを運び、環境温度よりも高い温度や低い温度を生成する機械であり、熱力学と伝熱工学の両方の理論に基づいている。現代の快適な社会や生活を支えるヒートポンプだが、「フロン」「温暖化」といった社会問題からも話題になってきた。それらも含めて、日本冷凍空調学会が、ヒートポンプの原理、構成や使われ方を説明する。賢いエアコンの選び方、食品冷凍に関する話題など身近な話題も充実しているので、文系理系に関係なく、興味がある章から読んでほしい。 (飛原英治、柳原隆司、松岡文雄、桐野周平:編/日本冷凍空調学会)


マイクロパワー革命 IT革命の次はこれだ!

柏木孝夫、橋本尚人、金谷年展

2001年に初版された本だが、今日話題の電力自由化に関係する、マイクロガスタービン、マイクロガスエンジンなど、小型分散型電源と呼ばれる発電システムや、自由化の中で分散型電源の重要性について記述されている。当時の背景や現在の実情を対比しながら読むと、エネルギーは総合的な学問であることがわかるだろう。 (阪急コミュニケーションズ)


蒸気動力の歴史

H.W.ディキンソン

現代の社会を支えている主たるエネルギーは電力であり、そのほとんどが蒸気を利用して生み出されている。本書から、これまでの蒸気機関、蒸気の運動エネルギーとその利用、蒸気タービンやボイラなど、蒸気動力の歴史の大きな流れを学ぶことができる。熱工学を大学で学ぶにあたり、指導教官の先生からかつて薦められていた書籍でもあり、何年も経った今も若い研究者に紹介したい、技術史の名著だ。 (磯田浩:訳/平凡社)


挑戦の行動学

城野宏

就職や進学などの節目に、「自分の人生はどうなるのだろうか」と不安になった時や、思い通りにことが運ばない時など、現状を打破したい時に読むことを勧めたい。頭と手、足、口を動かし、何らかの働きかけをする、できることを行動することで、環境は変わるということが書かれている。やや古い本ではあるが、何度も読み返して意義のある本だ。 (PHP研究所)


熱エネルギーのおなはし

高田誠二

熱力学や熱工学の成り立ち、そして歴史の流れの中での発展を、やさしい文章と事例をとおして学ぶことができる。先人たちの熱エネルギーに対する知の探求の様子が理解でき、特に歴史好きな人は文系理系に関係なくハマるだろう。 (日本規格協会)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。