私たちが使うノートパソコン、スマートフォンなどのコンピュータの回路は、デバイスの基板表面に、写真を焼きつけるように電子回路のパターンを刻み込むという方法で作られています。それは非常に微小な領域に精細な加工を施すという意味で、微細加工技術と呼ばれており、ものづくりにおいてとても重要な分野です。
しかしながら、こうした微小なデバイスを作製するための加工技術は高価な装置や設備が多く必要です。私の研究室では、走査型プローブ顕微鏡などの顕微鏡技術を用いて、シンプルでかつ低コストに微細加工を実現する技術を開発しています。
医療、バイオ分野にも役立つ走査型イオン伝導顕微鏡
私は微細加工に、走査型プローブ顕微鏡などの顕微鏡技術を用いています。その中の技術の一つである走査型イオン伝導顕微鏡を用いた手法では、表面に近づけた探針と基板間に流れるイオン電流を利用して、表面に高精度な微細立体造形を作り出す技術を開発しました。これによって、シンプルで低コストな微細加工の装置が可能になります。研究成果は、次世代のマイクロデバイスの開発や製作に重要です。
また、こうした微細加工技術を医学や生物学といったバイオ分野への応用にも展開しており、顕微解剖や顕微手術、単一細胞操作などの新しい装置や手法の開発も行っています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→精密機器、半導体製造、輸送機器・自動車
- ●主な職種は→研究職、技術職
- ●業務の特徴は→基礎研究、応用研究、製品開発、生産技術
分野はどう活かされる?
研究室で扱ったナノ・マイクロといった微細領域におけるメカトロニクスの知識や経験を生かして精密機器を開発する業務などについています。
微小な世界で生じている現象や反応を見てみたいという欲求は、顕微鏡技術を発展させてきました。微小な世界が見えてくると今度は、その世界を触ってみたい。触るだけでなく、動かしたり組み立てたりしてみたいと、興味は尽きません。私たちの研究室では、こうした微小世界でのエンジニアリング“ナノクラフトテクノロジー”を日々開拓しています。その実現はナノエレクトロニクス、ナノマシンといった微細なデバイスの作製技術をはじめ、生体分子のマニピュレーションなど、理工学や生物学、医学といった幅広い分野における応用が期待されます。ぜひ一緒に研究しましょう!!
静岡大学工学部機械工学科は、宇宙・環境コース、知能・材料コース、光電・精密コースと、機械工学に関する幅広い分野を総合的に教育・研究しています。私の所属する光電・精密コースでは、メカトロニクスや光ナノバイオなど先進的な機械分野を学んだり、研究したりできます。
興味がわいたら~先生おすすめ本
3Dで探る 生命の形と機能
綜合画像研究支援:編
マイクロやナノスケールでの微細加工技術を応用して顕微解剖した細胞や組織などの生体試料を、立体視できる豊富な電子顕微鏡像とともに紹介。近年、電子顕微鏡において3次元で立体視でリアルタイムにて顕微観察できる3Dステレオ電子顕微鏡が開発されている。そうした技術開発があってこそ、生体の正確な理解が進む。静岡大学岩田研究室が開発している走査型プローブ顕微鏡やその技術を応用したマイクロ・ナノスケールでのマニピュレーターについても紹介。3Dステレオ電子顕微鏡と複合化することで、微細加工や顕微解剖の操作性が著しく向上できる。こうした手法は微細領域における生産工学・加工学の新しい展開の可能性を示している。 (朝倉書店)