研究対象は「国文学」。とくに「平安文学」「和歌文学」を研究してきました。平安朝の和歌や物語のテキストは、書写を繰り返しながら伝わっていきます。その過程で、様々な言葉の違いが生まれます。そういった表現の「揺れ」を、文字列解析ツールを用いながら、書写当時の文化を背景に読み解いています。「情報科学」研究者との連携し、文字列解析・データマイニングの専門的な手法を採り入れ、独自に開発したシステムを用いた文学研究です。
東日本大震災が起こった時、過去の地震の文献に関心が集まりました。しかし、そこに書かれた文字(変体仮名・くずし字)は、一般の人たちには読めません。折しも、現代はネット社会。過去の貴重な文献でも、実際に手に取って見ることはできないにしろ、鮮明な画像がPCの画面上で閲覧できる環境が、徐々に整いつつあります。ならば、WEB上にアップした文献の画像に、現行の表記文字に書き換えたテキストデータをリンクさせることで、一般の人々への文化の普及と研究の進展が見込めます。
ゲーム感覚で古典に触れて
私はこれまで、情報科学研究者との共同研究によって、画像情報と文字情報を統合した閲覧・分析システムシステム開発に取り組んできました。この新たなシステムを用いて、大学所蔵の貴重本を対象に、画像と文字をつないだデータベースを構築しています。
これは、実証的な文化研究における用例収集の側面を持ち、研究活動に直結します。また興味ある一般市民が、ゲーム感覚で古典籍に触れる手段としても有効です。言わば、研究―教育―娯楽の垣根を取り払い、人文系コンテンツの「オープンサイエンス」の新たな仕組みを、社会に提示できるのです。科学の分野では当たり前になりつつある情報共有のあり方が、文化系の研究分野でも求められています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種→金融、出版、情報通信
- ●主な職種→営業、事務、SE
分野はどう活かされる?
一般的な文系学部の学生の就職先(銀行や証券会社など)が多いですが、専門性が高い職種としては、出版やSE(システムエンジニア)が挙げられます。いずれも、学部で学んだ知識と技術をもとに、自ら情報を収集・分析して、書籍の出版や広告の作成、ソフトウェア開発などを行っています。
人文系の学問は、これまで、研究者一人ひとりが個別に取り組む分野として、発展を遂げてきました。しかし、現代では、もっと広く、一つひとつの知見を相互に関連付けながら、一般にも提供されていくべきでしょう。
過去の貴重な文献の鮮明な画像がPCの画面上で閲覧できる環境が整いつつあります。しかし、そこに書かれている変体仮名(現在、一般に使用されている仮名とは異なった字体の仮名)は、約100年前には学校教育で用いられていましたが、現代人にとって、簡単に読めるものではありません。ここ100年程の間に、過去の人々の英知を読み解き、現代に受け継ぐ力が、急速に衰えているということになります。
そこで、そうした個別の文化事象を、大量に収集・分類し、研究者のみならず、一般にもわかりやすく提供できるシステムを構築し、実際にそのシステムを使用することによって、人文系学問の研究を進め、また、その成果を一般に提供、文化を継承していくことを目的としたのが、本研究分野なのです。
文化情報学部は、「文理融合」がコンセプト。「文化を科学する」ことで、人間が生み出す「文化」を、情報科学・統計学などの分析手法を用いて客観的に分析していきます。そこで私の授業・研究では、日本の古典籍(『百人一首』や『源氏物語』などの古典文学など)を対象にデータベースを構築し、情報科学の手法を用いて、その文化を担った人物の歴史的な考証や、古典籍の伝本研究、文学作品の表現研究を行っています。情報科学研究者との共同研究が強みです。
また、企業との連携(産学連携)も特色の一つ。文系研究者と理系研究者、それに企業が、三者三様の「得意ワザ」を持ち寄って、失われつつある伝統文化を現代によみがえらせ、未来につなぐ学問をしています。
興味がわいたら~先生おすすめ本
科学者とあたま
寺田寅彦
物理学者であって随筆家、俳句を夏目漱石に師事した俳人でもある寺田寅彦の随筆撰集。表題作「科学者とあたま」は、自分の能力にいまひとつ自信がもてない若者に読んでほしい作品。「科学者」になるには、「あたまがよい」ほうがよいのだろうか。それとも…。この本では、「文系」「理系」の学問に通じた著者が、様々な文化的事象を肌で感じ、情報を整理し、その本質にアプローチしていく。「文化事象を科学的に分析する」とはどういうことなのか。大量の文化系データを研究対象とする場合、コンピュータに頼るあまり、ともすれば、データの本質を見誤ってしまう。扱う事象やデータは違っても、そのアプローチのしかたや分析の姿勢には、学ぶところがある。 (平凡社)