応用微生物学

薬剤耐性菌VS抗菌薬の戦いに、環境微生物学から切り込む


鈴木聡 先生

愛媛大学 農学部 生物環境学科 環境保全学コース/農学研究科 生物環境学専攻/沿岸環境科学研究センター

どんなことを研究していますか?

病院の院内感染で猛威を振るう「薬剤耐性菌の問題」が、国際的に緊急の大きな課題となっています。抗菌薬・抗生物質は、病原微生物を阻害する化学物質であり、毒ではなく「薬」という認識ですが、環境に放出されると環境微生物にも影響を与えます。結果的に生態系全体のバランスをくずし、ひいては人間への影響が出てくるのです。抗菌薬・抗生物質を環境汚染物質として認識する必要があります。

耐性菌は病院を出て、水圏環境へ拡散

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私は環境微生物学者の立場から、抗菌剤・抗生物質へ耐性を示す微生物の探索と、薬剤耐性を起こす遺伝子の拡散の研究をしています。病院で抗菌剤を使うと病原微生物が耐性化します。つまり、病原菌に対する薬が効かなくなるのです。耐性菌や耐性遺伝子は下水処理後でも残存し、環境へ放出され、水圏環境へ広がります。耐性遺伝子が環境から再び人間社会へ侵入する恐れについて、よく考えておく必要があります。

また人間や農水産物に付着した耐性遺伝子が国際的に移動する実態などを明らかにすれば、危険な薬剤耐性病原菌や汚染食品の防疫策を提言することができます。さらに新しい薬品の開発や、迅速簡便な検査法の開発が期待できます。

人類が作り出してきた医薬品など、役に立つ人工化学物質にも負の側面があります。とくに環境や生態系への影響は目に見えずジワジワと進行します。人間が気づいた時にはすでに取り返しのつかない状態になっていることもあるのです。

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フィンランドの養殖場での薬剤耐性菌調査

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→地方公務員、環境コンサルタント、製薬企業など
  • ●主な職種は→研究、調査、営業など
分野はどう活かされる?

大学では、乗船を伴うマクロな環境調査から、遺伝子定量、化学分析などのミクロな解析までのスキルが身につくので、広い業務が可能です。例えば、地方自治体(愛媛県庁、大分県庁、徳島県庁、松山市役所など)で水産や環境調査の技術者として活躍。また、環境コンサルタント会社でダムや建設事業に際しての環境アセスメント技術者として活躍。食品工場の衛生管理業務で活躍する卒業生もいます。

先生から、ひとこと

目に見えない生物たちが地球を創り、地球環境を維持していることを想像してみましょう。ワクワクしませんか。

先生の学部・学科はどんなとこ

愛媛大学沿岸環境科学研究センターでは、化学汚染と毒性影響の分野を中心に、生態学・環境学での論文引用指数は日本トップクラスを維持。過去の環境試料を保管して研究に使う「生物試料バンク」を、日本で唯一所有するセンターです。全国共同利用・共同研究拠点に認定されており、環境科学分野では国際的にもトップランクの研究実績を持ちます。生物、化学、物理など広い分野から環境学を学べるため、農学部、理学部、工学部などの学生が学んでいます。多くの海外留学生や他大学出身の大学院生も受け入れて教育しています。卒業生の多くは研究者として国内外で活躍しています。

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研究室メンバーと愛媛大調査船での海水採取

先生の研究に挑戦しよう

・池の水を汲んできて、水環境中の微生物の数を測定してみましょう。
全菌数(微生物すべての数)と生菌数(培養できる数)を同時に測定し、環境中の見えない微生物生態系の実態を知る。細菌を見る高倍率顕微鏡がない場合は、低倍率顕微鏡下でプランクトンの観察でもよい。次に、その水に抗生物質を微量加えて、経時的に細菌やプランクトンなどの数や種類の変化を調べる。

興味がわいたら~先生おすすめ本

微生物ってなに? もっと知ろう!身近な生命

日本微生物生態学会教育研究部会

目に見えない「微生物」とは何かを知り、彼らがどのような環境で生き、どのような役割を果たしているかがわかる。バランスのとれた生態系としての微生物を学ぶことで、化学汚染が起こったときに応答する微生物の機能を考えるための知識が得られるだろう。 (日科技連出版社)


分子でよむ環境汚染

鈴木聡:編著

ダイオキシンなどの化学汚染の実態をはじめ、その内分泌かく乱などの生物への影響や、微生物による分解などについて、各分野の新進気鋭の専門家が解説している。加えて、執筆した専門家たちがどのように研究者の道を歩んだかについての熱いメッセージが記されている。 (東海大学出版部)


水圏微生物学の基礎

浜崎恒二、木暮一啓:編

どこに、どのような微生物が存在しているのか。この疑問を解明すべく、様々な研究が行われてきた。この本では、最新の水圏微生物研究の成果がわかるともに、各章末で確認となる学習課題に取り組むことができる。水圏微生物研究の教科書として適している。 (恒星社厚生閣)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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