高分子・繊維材料

AIによる材料開発

主役は研究者!AIは脇役!
実験主導マテリアルズインフォマティクスの開拓を目指して


緒明佑哉先生

慶応義塾大学 理工学部 応用化学科(理工学研究科 総合デザイン工学専攻)

出会いの一冊

考えないヒント アイデアはこうして生まれる

小山薫堂(幻冬舎新書)

テレビやラジオの番組を作っている有名放送作家が、どうしたらアイデアをどんどん出せるのか、ヒントを書き下ろしました。アイデアが湧いてくるところを説明している本は珍しいと思います。

世界を変える研究はこれ!

実験主導マテリアルズインフォマティクスの開拓を目指して

材料研究+IT=‟マテリアルズインフォマティクス”

最近、人工知能(AI)に関する話題をいろいろな場面で聞くと思います。その中には、AIが私たちの日常生活を助けてくれる事例もありますが、AIによって人間の仕事が奪われる可能性があることなど、負の側面も紹介されています。

最近、研究にAIを取り入れることが盛んです。これは、AI自体の研究のことではありません。私が取り組む材料や化学の研究では、AIを使って研究を効率的に進めることが期待されています。情報学(インフォマティクス)の力で材料や新素材(マテリアル)の開発や発見をするということで、これを「マテリアルズインフォマティクス」と呼び、化学・材料関係の企業などでも注目されています。

では、AIの登場によって研究者の仕事はなくなってしまうのでしょうか。そんなことはありません。AIはあくまでも「手段」にすぎず、それをどのように活用するかは、研究者の知識と経験と腕前次第です。某猫型ロボットの漫画でも、道具の使い方を間違えるとおかしなことが起きてしまいますよね。

小規模実験データでも、AIで新しい電極材料を発見

私は、高分子材料やナノ材料などの「材料」の研究をしており、AIを手段として使っています。AIといえばビッグデータと思われるかもしれませんが、一方、実験から得られるデータの規模は残念ながら大きくありません。

でもここで諦めてしまっては研究になりません。小規模実験データからいかにその本質を引き出し、実験を効率的に進めるかを、データ科学の研究者たちと共同で研究しています。

実際に、小規模データとAIの活用により、新しいリチウムイオン二次電池の電極材料の発見や、ナノシート材料を合成する際の収率の向上を可能にしてきました。これからの時代、実験科学者の熟練とAIの協働こそが重要ではないかと考えています。

2019年、中国・西安で開催された第1回中国-日本高分子科学若手シンポジウムでの招待講演

先生のフィールド[マテリアルズインフォマティクス]ではこんな研究テーマも動いている!
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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エネルギー関連の材料には、貴金属から遷移金属が必要です。しかし現在これらの資源は枯渇し、需要と供給に不均衡が生じています。近未来に求められるのは金属資源を使わない(メタルフリーな)エネルギー関連材料です。

私は、有機高分子材料を効率的に設計、合成、構造制御することで、電池や水素を製造するエネルギーにかかわる材料を省資源化・低コスト化しました。誰でもクリーンなエネルギーにアクセスできることを目指しています。

新素材を作る、新しい材料の設計方法を構築することは、産業の振興と技術の革新をもたらします。日常生活で困っていることについて、解決する材料や手段がないからと諦めていませんか。

例えば、私は「まさつ力」を色で測れる高分子材料を作ってきました。これによって歯磨きの適切なブラッシング力を測ったり、皮膚と物質との間にはたらくまさつ力を測ることができれば、健康維持に役立てることができます。新たな技術によって新しい産業や技術を創出することが可能になると考えています。

きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

高校生の時、部活は「練習量と気合で何とかする」という時代で、研究も同様だと思っていました。気合で実験をしていれば、いつか目的は達成できると思っていました。いかにも昭和ですね。

しかし、世界的にもアジア諸国の台頭により研究のスピードが上がる中、どうすれば先駆的な研究ができるかを考えるようになりました。そこでAIの助けを借りよう!という発想にたどり着きました。

とはいえ、高校・大学と情報系の勉強はほとんどしておらず、AIに関しては素人でした。そこを仲間の研究者に教えてもらい、何とか使えるようになってきたところです。新しいことの勉強は大変ですが、とてもわくわくします。また、様々な研究者と交流しながら進めていくこともとても面白いです。

◆中高時代は

吹奏楽部の部活動に没頭していました。厳しい部活動でしたが、音楽を作り上げるために、高い目標を掲げてチームプレーで頑張った経験は、研究を行う上でも役に立っています。

◆出身高校は?

逗子開成高校

先生の分野を学ぶには
緒明佑哉先生 の研究・研究室を見てみよう

緒明先生のページ

教員紹介ページ(慶応義塾大学)

まさつ力を色で測れる材料についての論文の紹介(慶応義塾大学)

希少な金属資源を使わない有機材料でできた電池に関する研究の紹介(科学技術振興機構)

AI(マテリアルズインフォマティクス)を活用したナノシートの効率的合成についての研究紹介(科学技術振興機構)

研究室所属の学生との研究進捗状況に関する議論の様子。
教員と学生がお互いに知恵をしぼりうまく協同することが、研究には重要であると考えています
先生の学部・学科で学ぼう

慶應義塾大学理工学部では、まず「学科」で各理系科目の基礎的な事項を学びます。その後、大学院の理工学研究科に進学すると、研究の分野や方向性の近い「専攻・専修」でさらに発展的な学習と研究を行います。

多くの大学では、学部と大学院の組織が同一ですが、本学ではこの組織が異なるため、学業の習得および研究の進展の段階に応じた組織で、半学半教の精神をもって学ぶことができるのが特徴です。

中高生におススメ

ドラえもん

藤子・F・不二雄(てんとう虫コミックス)

未来の道具を主題にした話を、リラックスして楽しく読めるのがいいですね。理工系の観点で読むと、その道具を実現する技術や材料は既にあるか、今後実現できるだろうかと考えるのも楽しいものです。


非属の才能

山田玲司(光文社新書)

研究者は一風変わった人が多いと言われています。それは「みんなと同じ」ことをしていては研究にならないので、「みんなと同じ」ではないことを考えているからではないでしょうか。この本では、「みんなと同じ」ではないことを「非属の才能」として推奨してくれます。ぜひ、皆さんの中に眠っている非属の才能を見つけてください。


高分子未来塾(Webサイト)

高分子材料は、実は皆さんの身近にたくさんあるのに、高校の化学では終盤にしか出てきませんし、材料としての面白さを味わう機会が少ないように感じています。そこで、生活から未来を変える可能性のある高分子材料について、皆さんに興味を持ってもらいたいと思います。

このWebサイトは、高分子って何?という人でも、初歩からわかるように書いてあります。高校の教科書の目次にある単元や分野は一度忘れて、「化学」と「材料」の面白さを味わってみてください。 

[Webサイトへ]


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

医学。化学で原子・分子について学び、材料の構造や機能を化学の力で理解・制御できそうだとわかってきた時、病気や生体について、医学でどこまで科学的に理解できるのかに興味がわきました(しかし、時すでに遅しでした)。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

スイス。景色がきれいだから。


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