反応工学・プロセスシステム

水素貯蔵

水素を1/1000の体積に! 再生可能エネルギーを水素に変えて長期貯蔵


花田信子先生

早稲田大学 先進理工学部 応用化学科(先進理工学研究科 応用化学専攻)

出会いの一冊

トコトンやさしい水素の本

水素エネルギー協会(日刊工業新聞社)

「水素」に関して、水素の性質から始まり、水素の作りかた、水素の貯蔵・輸送方法、水素のエネルギー利用方法を全てを網羅してまとめてあります。1項目見開きで、解説とイラストで紹介してあり、分かりやすいです。

水素エネルギーを利用するにはいろんな技術が必要になるので、興味のある項目からぜひ読んでみてください。

こんな研究で世界を変えよう!

水素を1/1000の体積に! 再生可能エネルギーを水素に変えて長期貯蔵

気体を液体や固体に変えてコンパクトに

水素は、再生可能エネルギーなどの様々な一次エネルギーから製造でき、燃料電池などから電気や熱を効率よく取り出せます。

再生可能エネルギーは、水電解で水素に変換することで、二次エネルギーとして大量輸送・長期貯蔵が可能です。

水素は常温では気体で存在するため、化学物質に変換して液体状にしたり、水素原子として固体状にしたりすることでコンパクトに水素を貯蔵できます。

水素を速くたくさん貯めるには

私は、初期の研究では、水素を1/1000の体積に閉じ込めて貯められる水素貯蔵材料の研究を主に進めていました。

その中でもマグネシウム(Mg)に注目しました。MgはMgH2という水素化物を作って、水素を貯蔵できます。

質量当たりや体積当たりで多量の水素を貯められるのですが、水素を吸蔵したり・放出したりする反応の速さが遅いという欠点がありました。表面が不活性なのが要因なので、触媒をボールミリング法でMgH2粒子表面にナノレベルで均一に分散させることで、劇的に反応の速さを改善させることができました。

水素貯蔵タンクの開発も

現在では、この機能が改善された材料を上手く水素貯蔵タンクに搭載する方法や燃料電池と組み合わせて使う時のプロセスやシステム研究も同時に行っています。

固体の水素貯蔵材料は粉末で、水素吸蔵・放出するときに膨張・収縮して微粉化し、タンクの中で固まってしまうということが起きます。この場合には、タンクの中で水素ガスとの接触が悪くなったり、反応に伴って出てくる熱を上手く逃がすことができなくなって、タンクの性能が悪くなってしまいます。

そこで、粉末を炭素材料や高分子で固まりの形状にして充填する方法、熱を逃がしやすいタンク構造などの開発を行っています。

水素貯蔵材料の粉末(奥)、水素貯蔵材料の性能を評価するときの容器(真ん中)、水素貯蔵材料を高分子で固めたペレット(手前)。水素貯蔵材料は、水素ガスを1/1000の体積にして貯められます。
水素貯蔵材料の粉末(奥)、水素貯蔵材料の性能を評価するときの容器(真ん中)、水素貯蔵材料を高分子で固めたペレット(手前)。水素貯蔵材料は、水素ガスを1/1000の体積にして貯められます。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

理系に興味があったのですが、大学で数学か理科のどちらに進むかを高校時代は迷っていました。大学2年生から専門を選んで良い学部に進みました。

大学1年生の時に燃料電池や水素貯蔵材料を紹介している授業を聞いて、それまでは物理・化学は自然の原理を説明する道具だと思っていたのですが、新しい材料やエネルギーシステムを作ることで世の中に役に立つようなことができるかもしれないと思いました。それがきっかけで、物理や化学を学ぶコースに進み、水素貯蔵材料を研究している研究室に入りました。

学生と研究内容についてディスカッションしている様子
学生と研究内容についてディスカッションしている様子
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「高容量水素貯蔵材料の反応速度改善と水素貯蔵・供給プロセスの開発」

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水素貯蔵材料に水素を吸蔵させたり放出させたりする装置。
自分達で装置を組み立てて、性能を評価します。
水素貯蔵材料に水素を吸蔵させたり放出させたりする装置。
自分達で装置を組み立てて、性能を評価します。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先進理工学部応用化学科では、化学の中でも特に「役立つ化学・役立てる化学」の実践を目指しています。

世界をリードするバラエティーに富んだ教員がおり、「有機合成化学、高分子化学、応用生物化学、化学工学、応用物理化学、触媒化学、無機合成化学、ものづくり工学」とたくさんの分野があります。入学してからの授業でこれらの分野について学び、4年生では興味のある分野を選んで研究に取り組めます。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

大気を変える錬金術

トーマス・ヘイガ―(みすず書房)

ハーバーボッシュ法によるアンモニア製造を確立するまでの過程がドラマ仕立てで書かれています。研究者が化学の力をどのように活かしたのか、技術者が時代背景を基にどのように製造過程を確立したのかが面白く書かれています。


いちばんやさしい脱炭素社会の教本 人気講師が教えるカーボンニュートラルの最前線

藤本峰雄、松田有希、丸田昭輝(インプレス)

カーボンニュートラル社会についてエネルギーシステムなどの技術的なことだけではなく、政府の政策や企業の経営にどのように影響を及ぼすのか、投資や銀行の動きなどのあらゆる面から講義形式で解説してあり、この1冊で全体像を把握することができます。


生命とは何か 物理的に見た生細胞

シュレーディンガー、訳:岡小天、鎮目恭夫(岩波文庫)

『生物と無生物のあいだ』(福岡伸一)に紹介してあった本です。量子力学で有名なシュレーディンガーが、「原子は人の大きさに対してなぜそんなに小さいか?」「人が物理での熱力学的平衡状態(エントロピー最大)にならずに生き続けられるのはなぜか?」などの生命についての問いを物理的な観点から追及して述べていて、面白いです。

一問一答

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