◆着想のきっかけは何ですか
私は長年、活性炭のような細かい穴を多く持つ、吸着剤の吸着現象を研究しています。吸着という現象の基礎研究は、200年以上の歴史があります。今回の研究は、1950年前後にある程度確立された研究成果を、より前進させたものです。
まず、50年代以降に改良された高真空、高精度の分析装置を使って、より精度の高い吸着剤のデータを得ることができました。それによって、これまで知り得なかった挙動について、新しい知識と情報を得ることができるのではと着想しました。
◆どんなことがわかりましたか
私の研究は、吸着剤の中でもシンプルな、均一な炭素表面への吸着の仕方を詳しく調べあげることでした。均一炭素表面を持つ材料への吸着挙動を細かく観察することで、吸着過程で何が起こっているのか明らかにしました。
さらに、吸着剤に吸着した物質の分子レベルでのふるまいを知り得る非常に高精度に取得した実験データと、スーパーコンピュータを利用したコンピュータシミュレーションにより得られた模擬実験による分子レベルの挙動を可視化して比較することで、吸着メカニズムの解明に大いに貢献することになりました。
◆その研究が進むと何が良いのでしょうか
吸着現象は、様々な場面で工業的に利用されています。さらに吸着剤を利用した応用技術の省エネルギー化、高効率化など社会の要求を満たすためには、吸着現象の詳しい理解が重要となります。吸着の基礎研究の発展によって、様々な吸着現象の本質に迫ることは、これからのサステイナブル社会の発展・実現に貢献できます。

“吸着”をキーワードとして基礎研究を展開し、吸着現象を適用した応用技術による環境浄化(大気、水質)など、吸着分離プロセスの高効率化・省エネルギー化の実現に貢献できると考えています。
特に水蒸気の吸着現象を利用して、現在水の供給がされていない(供給が難しい)乾燥地域で大気中から効率的に水を取得することで、安全な水を安定して供給することに貢献できるかも知れません。
◆研究の道を目指したきっかけ
“博士”という響きに何となく憧れ、小学6年生の卒業寄せ書きに、“博士になる”と書いていました(本人は学位を取得するまで忘れていましたが)。高校の物理の先生が学位を取得されていたこと、さらに高校3年時に日本の高校を休学し、1年間米国の高校へ語学留学した先の物理の先生も学位を有していて、最初の講義で”I’m Dr. xxxx.”と黒板にでかでかと書き、”Mr.”ではないことを主張されていた時に、”Dr.”という響きがいいなぁと、なんともミーハーなきっかけから、帰国して復学した頃には“絶対博士号取得”と思っていました。
後はラッキーなことに4年生で配属した研究室で、現在の研究に関連する吸着剤調製の研究テーマに出会い、研究がとても楽しかったので、そのまま学位を取得し、その後も興味を掘り下げながら研究に従事し、現在に至っています。きっかけは、何でもいいと思います。興味を持ったらその信念を貫く勇気と行動力、プラス少しの運があればなんとかなる気がします。
◆大学時代は
小中高と野球をして、米国留学中もトライアウトで高校の野球部(米国のクラブ活動は能力がなければ人気クラブには所属できません)に入るくらい野球好きで、野球しかしていませんでした。でも、米国の高校のクラブ活動はシーズン制で、タレントのある子は、アメフト、バスケ、野球と、各シーズンどのスポーツでも抜きんでた能力を発揮していました。
日本のように1つのスポーツに固執する必要がないのはいいなと思い、大学では、部活ではなくサークル、社会人チームなどで野球、アメフトを、オフには友人とスキー合宿、フットサルと様々なスポーツをしました。興味があれば何でもやってみる(やれるんだ)という考えは、現在の研究活動にも活かされています。
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研究室の学生たちと
炭素系吸着剤への気相・液相吸着に関する基礎研究:
研究室の基幹となる研究テーマであり、より詳細な吸着現象の理解を目的として、過去に報告された既往研究の理解から、現在研究室で推進している研究のための実験を通し、吸着現象をより深く理解し、それらの知見を利用した機能性吸着剤や分離技術の開発を目指しています。
◆主な業種
・製造業、学術研究業
◆主な職種
・化学プロセス技術開発、化学製品製造、材料開発
業務の特徴は、環境やエネルギーのことを考えながら新しい材料開発、そして、化学プロセス技術の開発・設計・運転をしています。
◆学んだことはどう生きる?
卒業生・修了生は、化学・食料品・医薬品メーカーなどで、製造プロセス開発・設計、それらに関連する材料開発研究などに携わっています。このような仕事は、化学工学の知識を習得している技術者・研究者が第一線で活躍しています。
しかしながら、卒業研究・修了研究が直接就職する職種・業種に関連する人は稀です。卒業生・修了生は、職種・業種にかかわらず、研究を通して培った“本質を見抜く力”を武器に、取り組むべき課題の問題点を見抜き、どのようにアプローチすればよいのかを提案し、 問題解決に取り組んでいます。
化学工学は、日本の産業において非常に重要な基幹の学問であり、物理化学と併せてぜひ大学で学んでもらいたい学問です。大学の学科名に化学工学を附した学科・研究科が減少し、どこで化学工学を学べるか、探すことが非常に難しくなりました。ただし化学工学会のHPなどから、どの大学で化学工学を教授しているのか、検索することができます。
テーマは何でもいいと思います。身近な現象をしっかり物理・化学の基礎を駆使して理解する能力は、将来の研究活動に活きますし、研究者にならない人でも本質をしっかり理解することは、環境に配慮した生活ができ、世の中に貢献できます。
講義で習う物理・化学は、直接身近な現象には適用できません(制限された条件下での現象を取り扱う)。複雑に様々な事象が現象を作り出しています。身近な現象からどのように考えれば(習った物理・化学から)説明できるのか、説明ができない部分はどのような事象か、どうすれば説明できるようになるか、など論理的に考えていくプロセスが重要です。
論理的に考えてもわからない場合は、直感が非常に重要です。頭を柔らかくして自由に発想しながら事象を観ることを忘れないでください。
水面の上にランダムに落ちた桜の花びらが、自然と集合体を形成するのは何故なのか?コップにあふれるギリギリまで入れた水は、なぜ上に凸の界面を形成するのか(表面張力があるから、と答えて終わる人が多いが、表面張力の起源とは?なぜ水の場合はモコっとなる?アルコールでは?など、と掘り下げていくことが重要)。
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Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? オーストラリア:大学教員になって海外研究機関で1年間研究をする機会が得られ、1年間過ごしたのがオーストラリア。大学キャンパスが広大。街も自然に囲まれ、面白い固有種の動物がいっぱい。ペリカン、キバタン、モモイロインコ、ワライカワセミなど、特に鳥類は豊富。治安も良い。 |
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Q2.一番聴いている音楽アーティストは? ヨルシカ・YOASOBI・ずっと真夜中でいいのに。:流行っている曲、アーティストを学生に尋ねると、この3組を推された。それ以来気に入って聴いている。 |
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Q3.研究以外で楽しいことは? 釣り:日が昇る前から海に行き、海の状況に応じてルアーを選択し、それに対する魚の応答を見る。釣れると嬉しいし(自分で釣った魚は旨い)、釣れなくてもなぜ釣れなかったのかと原因を考え、次の釣行で試したいことを考えることが、非常に楽しい。 |




