子ども学(子ども環境学)

遊び

遊ばない子どもが増えている!人にとって「遊び」は重要


粟原知子先生

福井大学 国際地域学部 国際地域学科

出会いの一冊

こどもを育む環境、蝕む環境

仙田満(朝日選書)

私が遊びの研究で初めて読んだ本が、建築学分野の大家である仙田満先生の本でした。遊びと言えば、保育や教育、社会学分野が主流だと思っていたのに、私が学ぶ建築分野の先生の研究がとても刺激的な内容で、私が建築を学び続ける原動力にもなりました。

子どもの生活の核ともいえる遊びの問題を扱うとき、都市の問題なしには語れません。この先数十年後にどのような社会、ライフスタイルの変化があるかを想像し、未来を見据える力が必要な建築計画学だからこそ、子どもの遊びの重要性を社会問題、発達心理も含め、人間と都市の問題として扱えるのだということを知ってほしいです。仙田先生の研究と設計活動のすべてが詰まった一冊です。

こんな研究で世界を変えよう!

遊ばない子どもが増えている!人にとって「遊び」は重要

子どもや社会から遊びが失われていく

私は、小学生の遊びについて20年間研究してきました。20年前、自分が既に外遊びをしなくなった世代だと言われていることを知り、大きな衝撃を受けたのがきっかけです。“遊びを知らない世代”である私たちが親となり、その子どもたちや社会から、遊びが失われつつあります。

今後、想像もつかない速度で変化する時代を生き抜くために“非認知能力”を育むことに注目が集まっています。私は、この能力が遊びで培われると考え、子どもがもっと自由に遊べる環境や遊びが大切にされる社会を作りたいと考えています。

平日の放課後「遊ばない」が2割

遊びの問題は、急激な都市と時代の変化によって引き起こされています。私の調査でも、遊び場の選択肢がどんどん限定的になり、遊びが内容・仲間ともに孤独化していることが確認できています。

さらに深刻なのは、この10年間で平日に「遊ばない」子どもが出現したことです。近年では、調査対象者の約2割に迫る勢いです。私は、「遊ばない」子どもが急増している点に注目し、その特徴を分析することで、遊びが人間にとってどれだけ重要なことなのかを解明しようとしています。

遊びという”余裕”があって人生が豊かに

新型コロナウィルスの流行で急に暇な時間ができたとき、毎日何をしてすごしましたか。“置かれた状況で自分は何ができるか”“どうすると楽しめるか”これを本能的にやっているのが、実は遊びの本質です。例えば、ハンドルが少々の”あそび”(=余裕)をもつことでうまく機能するように、人間もこの”余裕”(=遊び)によって、人生が豊かになるのです。

2017年にカナダで開催されたIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)世界大会に参加した際の遊びイベントの様子。
2017年にカナダで開催されたIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)世界大会に参加した際の遊びイベントの様子。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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”子どもにやさしいまちづくり事業”というものがあります。子どもにやさしい街は、高齢者や障がい者を含むすべての市民にやさしい街となります。子どもが遊べる街を作っていけたら、この願いは叶えられると思っています。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「「遊ばない」子どもの特徴にみる小学生の遊びの質と21世紀型教育スキル獲得の関係性」

詳しくはこちら

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こども環境について学ぶ授業の様子。授業にも遊びを取り入れ、皿回しやけん玉等を学生さんに楽しんでもらいます。
こども環境について学ぶ授業の様子。授業にも遊びを取り入れ、皿回しやけん玉等を学生さんに楽しんでもらいます。
先生の学部・学科は?

私は工学部出身ですが、現在は文系学部である国際地域学部に所属しています。国際地域学部では、国際的視点と地域的視点の両面から地域の課題に向き合い、実践的な学びを主に、将来、地域貢献や世界に羽ばたいていくことのできる人材を育てています。学際的な学部であるため、様々な分野の教員と協働で研究活動が行える環境にあります。

中高生におすすめ

ぼくたちはこうして学者になった 脳・チンパンジー・人間

松本元、松沢哲郎(岩波現代文庫)

遊びや子どもを研究する上で、最近、脳科学と霊長類学に興味を持っていますが、その分野の第一人者である二人の対談をまとめた本です。成育歴を知ることができる点が最も面白く、学者になるまでの過程や現在の研究内容、その展開も含めて、彼らの考えが率直に語られています。

何を研究題材にするか、切り口の面白さや発展のさせ方、好きなことを突き詰めるといろんな世界とつながることができるんだということを知ってほしいです。


秘密 The Top Secret(漫画)

清水玲子(花とゆめCOMICS)

そう遠くない未来の、刑事事件の捜査の一環で、死んだ人の脳を解析し生前の記憶を他者が見ることができるようになった社会の話。科学の進歩には倫理観が絶対に必要だという事、想像力を失った者が大きな力を得てしまったときの怖さを知ってほしいです。

繊細で美しい絵も楽しめるポイントです。殺人事件現場など過激な描写すら何故か美しく見えてしまいます。SFをベースにしながらもいろんな人の思いが交錯し、それぞれの立場でのそれぞれの“正義”がどう人に影響を与えるか、気持ちの描写もおもしろいです。


子ども問題の70年(雑誌「児童心理」増刊2017年12月号)

(金子書房)

まさに子ども問題の70年間が詰まった一冊。私が研究を始めた時に読み漁った諸先生方の考えが一度に楽しめると同時に、自分の子ども時代を客観的に見ることができます。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

建築。高専から建築を学んできましたが、もう一度きちんと学びたいです。今ならすごく思いの詰まった図面が描けそうです。あと、高専出身なので、大学生として建築を学んでみたかったです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

デンマーク。研究で何度か訪れています。本当の自由を見ました。デンマークの子ども、障がい者、高齢者よりも、日本の大人たちの方が自由な人生を送っていないと感じてしまいました。

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

椎名林檎。特に、『ギャンブル』。昔から好きです。歌詞、音楽、ライブ演出。

Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『風の谷のナウシカ』。持続可能な社会…このままでは人類は滅びます。オウムの大群が押し寄せてくるシーンは、東日本大震災で津波が押し寄せ原発が爆発したことに重なります。原作の漫画を読んで、さらに感動しました。

Q5.研究以外で楽しいことは?

酒を飲む。子育て。酒飲みのDNAです。最近はいかに長い時間飲んでいられるかを研究しています。子育ては研究の実践版として楽しくやっています。子どもが何か問題を起こすたびに、「あの先生があの本で書いていたことが目の前で起こっている!!」とわくわくします。


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