社会福祉学

障害者支援

法に触れた知的障害者の生活を支援していくには


京俊輔先生

島根大学 人間科学部 人間科学科 福祉社会コース(人間社会科学研究科 社会創成専攻 人文社会コース)

出会いの一冊

ケーキの切れない非行少年たち

宮口幸治(新潮新書)

少年院などでの臨床経験のある精神科医の筆者が、「非行少年」とはどのような特徴のある子どもたちなのか、彼らが立ち直るためにはどのような働きかけが必要なのかを説明しています。この本では、非行少年には、私の研究とも共通するのですが、障害のある子なども含まれていることが説明されています。社会的な側面から非行少年がどのように生み出されているのかを考える上では、大変参考になります。少年非行や、障害児教育、福祉に関心のある高校生におすすめです。

こんな研究で世界を変えよう!

法に触れた知的障害者の生活を支援していくには

社会的に孤立し、生活に困った末の犯行

私は社会福祉の視点で、触法行為(法に触れる行為)をした知的障害のある人の福祉的な支援と専門職との連携を研究しています。福祉的な視点で触法行為をした知的障害のある人を見ると、彼ら個人の障害特性だけでなく、家庭環境や対人関係、犯行時につながりのあった社会資源との関係などが見えてきます。

彼らのほとんどが社会的孤立状態だったこと、障害が軽度であるがために福祉的支援を受けずに生活してきたこと、家族や親類とも疎遠になってきたことなどが傾向として見られます。そうした背景を持つ彼らが、生活に困った結果、触法行為をしてしまうことも多いのです。つまり、福祉的な支援の必要性を多く抱えてきた人の中に、触法行為をしてしまう人がいるということです。

住居や仕事、人とのつながりが必要

こうした触法行為をした知的障害のある人の生活は、犯行時と矯正施設退所後でほとんど変わりがなく、常に社会的な孤立状態に置かれています。矯正施設に入ることが、生活改善につながるかといえば、そういうわけではありません。もっと根本的なところ、住む場所がある、経済的に安定する、働く場がある、人とのつながりがあるなどが必要だろうと考えられます。

研究を通じて、司法や福祉等の関係者が連携して彼らの生活をどのように支えることができるか、触法行為をすることなく一人の人として安心して暮らすことのできる生活環境をどう整えることができるか、その連携体制と方法を提案していきたいと思います。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「触法知的障害者に対する福祉的支援の支援特性に基づいた専門職間連携に関する研究」

詳しくはこちら

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どこで学べる?
先生の授業では

知的障害や発達障害の障害特性、二次的な障害である行動障害について講義しています。また、私自身が関わっている学外での実践等に関する情報を伝えています。  

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ゼミの様子
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先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業職種

(1) 福祉・介護施設での福祉・介護業務

(2) 自治体での福祉・介護業務

◆学んだことはどう生きる?

人間科学部は、まだ卒業生を輩出していません。それ以前に所属していた法文学部では、社会福祉士の国家資格を取得し、地域でソーシャルワーカーとして活躍する卒業生が多くいます。私の研究室の卒業生は、主に障害者福祉や児童福祉の領域で活躍しています。ある卒業生は、障害者入所施設で働いた後に、障害者福祉のソーシャルワーカーになり、松江市内の障害者福祉系のソーシャルワーカーのリーダーを担っています。

先生の学部・学科は?

島根大学人間科学部は、心理学コース、福祉社会コース、身体活動・健康科学コースの3つのコースのある文理融合型の学部です。専門分野を深めるカリキュラムが用意されているだけでなく、地域実践などに関する科目があり、分野横断的に学び合うプログラムも用意されています。また、分野横断的な研究にも積極的に取り組んでいるのが特徴です。私自身も同じ学部や他学部の教員、地域の司法福祉関係者たちと研究に取り組んでいます。

中高生におすすめ

プリズン・サークル(映画)

坂上香(監督)

島根県にあるPFI刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」で取り組まれている、受刑者同士の対話を通じて更生を促す「TC(回復共同体)」プログラムを取り上げたドキュメンタリー映画です。受刑者の生い立ち、これまでのゆがんだ人間関係、怒り、悲しみなどを知ることができるだけでなく、彼らの言葉に必死で生きていた人生を感じることができます。


福祉の思想

糸賀一雄(NHKブックス)

日本の「障害者福祉の父」と呼ばれる糸賀一雄が、1968年に記した福祉の古典です。糸賀一雄は福祉がまだ今日のように当たり前となっていない時代に、知的障害児施設「近江学園」、重症心身障害児施設「びわこ学園」を創設し、障害児・者の福祉に力を注ぎました。

この本は、当時の社会施策をこれら糸賀自身の経験などをもとに批判し、福祉とは本来どうあるものなのか、障害のある人に対する発達保障とは何かなど問題提起した一冊です。障害のあるなしに拘わらず、一人の人としての発達を考える、その糸賀の考えは、今日の福祉現場においてしっかり根付いたものとなっています。


自閉症の僕が跳びはねる理由 会話のできない中学生がつづる内なる心

東田直樹(エスコアール)

著者である東田直樹さんは、自閉症を伴う重度の知的障害者です。自発的な言葉はほとんどない、けれども書くことはできる、そのような障害特性のある方です。この2冊は、東田さんご自身が自分の感覚や体験などをまとめてあります。「僕の中の記憶は、線でつながりません。場面としての記憶しか残らない感じです。好きなことは、まるで向こうから飛び込んでくるかのように記憶できます。それなのに、過去のできごとについては、昨日のことも、1年前のことも、僕の中ではあまり変わりがありません」

「『じっとして』と言われるとします。『じっと』という言葉は『じっと見て』など、見るときに使われます。また『じっと動かないで』と動作のときにも使われるのです」。彼の本は、日本のみならず世界中で注目されています。彼らの語り、語ることのできる彼らの語りを読むことは、これまでの研究や実践では得ることのできなかった彼らに近づく方法だと思います。本書の続編となる、『続・自閉症の僕が跳びはねる理由 会話のできない高校生がたどる心の軌跡』もおすすめです。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

社会学

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

ニュージーランド。日本とは異なる障害のとらえ方で、福祉を充実させているから。

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

H ZETTRIO。『Playin’ Swingin’!!! H ZETTRIO!!!』が好きです。

Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『砂の器』

Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 とある県の社会福祉協議会主催のイベントでの、悪役キャラクターの着ぐるみ。


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