有機・ハイブリッド材料

ナノ粒子

有機無機ハイブリッド化で無機ナノ粒子に液晶性を与え、新しい機能を発現させる! 


蟹江澄志先生

東北大学 多元物質科学研究所(兼:国際放射光イノベーション・スマート研究センター)

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ある日常の実験風景


◆着想のきっかけは何ですか

私はもともと有機合成化学の分野で、特に液晶の研究を行っていました。東北大学への異動をきっかけに、非常に小さい無機物の粒子の合成をすることになりました。この粒子の形状が、有機の液晶分子の構造に形が似ていることから、2つを組み合わせれば、非常に小さい無機粒子に液晶の特徴を付与できるだろうと着想しました。

なお、液晶は分子レベルで自ら並んだり、その並び方を揃えたりできる性質があります。これらの性質を利用して、無機粒子の配列構造を自由自在に制御でき、全く新しい機能が現れることを発見したのです。

◆どのようなことがわかりましたか

私たちが発見したのは、半導体のナノ粒子を液晶として、その並び方を制御することで、ナノ粒子本来の性質を変えることができると言うことです。量子ドットは半導体ナノ粒子の代表的なもので、紫外線を当てると様々な色で発光します。

その性質は、新たな駆動方式のディスプレイにも採用されつつあります。私たちは、半導体ナノ粒子の配列を制御することで、その発光特性を制御する方法を新たに見つけました。新しいタイプの太陽電池の開発にも繋がると期待しています。

◆その研究が進むと何が良いのでしょうか

密閉する半導体の小さな粒子に、外から紫外線を照射すると、密閉空間の内部の電子が光エネルギーを受け取り、電子エネルギーが高い状態になります。そこから電子が元の状態に戻る際に、赤・緑・青色など、様々な色の発光が観察されます。

この特性は、新しいタイプのテレビとしても活用されつつあります。今回の研究では、そのような特殊な発光をする粒子を規則正しく配列させることで、発光強度を強めたり、発光エネルギーを他のエネルギーに変換したりすることが可能になると期待されます。この性質を活用すれば、新たなタイプの太陽電池の開発にも繋がると考えています。

SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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生活が豊かになるにつれ、人々が大量生産・大量消費の時代を謳歌した結果、皆さんもご存じの通り、地球環境保護に真っ先に取り組まなければならない状態になってしまいました。

一方、産業では未だに多くの製造現場で、大量生産に向いた方法で製品が作られています。例えば液晶テレビのパネル(画面)は、エネルギー消費量の多い真空プロセスで製造されています。

私たちはナノ粒子を用いることで、液晶テレビなどのパネルを、省エネ・低環境負荷で、個別(オンデマンド)生産可能な手法の開発に取り組んでいます。

主に産学連携での取組です。エコを指向する企業とタッグを組んで、製品の新たな製造技術革新・基盤作りに取り組んでいます。

この道に進んだきっかけ

私にとって一番はじめの研究は「カビはどういうところに生えるか?」でした。中学・高校時代より早く、小学6年生の頃の自由研究ですね。私が小学5年生の頃に母親が入院し、その理由が「肺にカビが生えたから」と聞かされたことが理由です。

当時の自分なりに、何かできることをと考えた結果だと思います。入院の理由はウソだったんですけどね…。今ではそのおかげで、何事にも好奇心を持って、まずは実験してみようという性格になったのだと信じています。

大学院では有機合成化学の分野で、特にフッ素系液晶の新しい合成法の開発に取り組みました。当時、テレビがブラウン管から液晶に変わる時代で、高性能なフッ素系液晶が求められていたことが影響しています。

大学院時代は、とにかくがむしゃらに実験で「気合い、根性!」という感じでした。好きだから続けられましたが、今の時代ではなかなか難しいと思います。ただ体力的にも、実験だけに最も夢中になれる時期は大学院時代だと思いますね。

どこで学べる?
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
学生はどんな研究を?

無機ナノ粒子の合成、触媒材料の設計と合成、有機無機ハイブリッド材料の開発を行っています。

学生はどんなところに就職?

◆主な業種

・化学メーカー、非鉄金属業

◆主な職種

・研究開発職 

◆学んだことはどう生きる? 

卒業した学生さんからたびたび、共同研究に関する相談を受けます。ナノ粒子やその表面修飾は、企業における材料開発でも重要で、産学連携に基づいた共同研究に発展しています。

先生からひとこと

とにかく、目に見えない“モノづくり”は、まだまだ未知の驚くべき発見に繋がります。“モノづくり”の駆動力は、好奇心です。自らの手で、誰も作ったことがない材料を合成し、その特性を自らの手で評価することで、驚くべき発見を見つけましょう!

先生の研究に挑戦しよう!

1.テレビは、ブラウン管からなぜ液晶へ?そして、その将来は?

2."ナノ”は、本当に役立っているの?だとしたら、どのように?

中高生におすすめ

絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている

左巻健男(ダイヤモンド社)

「化学は人類を大きく動かしている―。」と言うキャッチフレーズが印象に残る本。化学を含め、科学が人類の発展に如何に寄与してきたかを、その時の世界の状況を踏まえつつ紹介しています。化学が苦手な人にも、読み物として良いと思います。


先生に一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

アメリカ西海岸ですかね。年中過ごしやすいですから…ただ、物価が高いので実現は難しいでしょうね。

Q2.研究以外で楽しいことは?

週末の料理です。子供が喜んでくれるので気合いが入ります。

Q3.会ってみたい有名人は?

ジャン=リュック・ピカード艦長。「新スター・トレック」という番組のエンタープライズ号の艦長ですから、架空の人物です(笑)。


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