中国哲学・印度哲学・仏教学

仏教

見えないものを見ようとする修行者の思考をたどる


護山真也先生

信州大学 人文学部 人文学科 哲学・芸術論コース(総合人文社会科学研究科 総合人文社会科学専攻)

出会いの一冊

ブッダ

手塚治虫(講談社)

アニメ化もされましたが、やはり漫画が一番です。人間ブッダの悩みと苦しみ、そして生命すべてへの慈しみが、圧倒的な力で描き切られています。仏典には登場しない人物たちの活躍も含め、ブッダの生涯がこれほど見事に創作された例は他にないでしょう。

ここから元の仏伝を調べるもよし、『聖☆おにいさん』の元ネタを調べるのもまたよしです。読後、仏教はすごく身近なものになっているはずです。宗教を遠ざけてしまっている人には特に読んでもらいたい本です。

こんな研究で世界を変えよう!

見えないものを見ようとする修行者の思考をたどる

宗教としての仏教から哲学としての仏教へ

仏教というと葬式や墓参りなど、いかにも抹香臭いイメージがあるかもしれません。しかし、実際に仏教のテキスト(仏典)を読めば、そんなイメージは一掃されます。心や意識に関する高度に洗練された哲学がそこに記されていることを知ったときの驚きと感動――それが私の研究の原点です。

感覚や知覚を考察する心の科学

現在の研究テーマは、修行者(ヨーガ行者)の直観に関する認識的な問題の解明です。具体的には、私たちの通常の知覚と修行者の知覚とはどこが違うのか、どのようにして瞑想のなかで意識の変容がひきおこされるのか、といったことを考察します。こう書くと難しく見えますが、実際に修行するわけではありません。あくまでもテキストに沿って、著者の思考の足跡をたどっていきます。

インドの仏教徒たちは心の構造(感覚や感情、知覚や思考など)を考察し、それを瞑想の実践に役立てようとしました。仏教には現代の心理学や認知科学にも通じる心の分析が教えられています。仏教と聞くとそれだけで敬遠する人もいますが、この研究を通して、多くの人が「心の科学」としての仏教の価値に目を向けてくれることを願っています。

千年以上の時を超えて、対話する喜び

なお、仏典などの古典と触れ合うためには、語学(サンスクリット語など)の習得が不可欠です。でも不思議なことに、何かを知りたいという気持ちがあれば、語学は苦痛ではなくなります。原典を読むことを通して、千年以上の時を超えて、はるか昔の偉大な仏教徒たちと対話する喜び――これが仏教研究の醍醐味です。

龍谷大学図書館での因明(仏教論理学)文献の調査風景(2019年1月)〔桂紹隆教授,稲見正浩教授等とともに江戸時代の仏教論理学関係の古書を調査しているところ。手前右が筆者。〕
龍谷大学図書館での因明(仏教論理学)文献の調査風景(2019年1月)〔桂紹隆教授,稲見正浩教授等とともに江戸時代の仏教論理学関係の古書を調査しているところ。手前右が筆者。〕
先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「後期インド仏教認識論におけるヨーガ行者の直観の研究」

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ヤゲロニア大学(ポーランド)での招待講演の風景(2019年11月)〔この科研の内容に関する講演をインド学・チベット学を学ぶ学生・研究者を相手に行っているところ〕
ヤゲロニア大学(ポーランド)での招待講演の風景(2019年11月)〔この科研の内容に関する講演をインド学・チベット学を学ぶ学生・研究者を相手に行っているところ〕
先生の学部・学科は?

信州大学人文学部は、「実践知」をテーマとして掲げ、学問領域を横断しながら、人文学の知を広く世界で活用できる人材を育てることを目標としています。哲学・文学・歴史などの学問のほかに、芸術コミュニケーションや文化情報論など、現代社会や芸術文化にコミットする学問を学べる点に特色があります。哲学・思想論分野では、4名の教員が現代哲学から比較思想までの領域をカバーし、少人数ゼミナールで指導しています。

中高生におすすめ

インド哲学10講

赤松明彦(岩波新書)

哲学といえば西洋哲学を指すという常識があります。しかし、哲学は世界のいたるところに生まれてきました。中でもインド哲学は、西洋哲学や中国哲学と並ぶ古い歴史を持つ伝統です。仏教もまた、この伝統から生まれてきました。

現象と存在、言葉の本質、そして運命と自由について古代インドの哲学者たちが何を考えてきたのか――この本は、インド哲学のエッセンスを講義形式で伝えてくれます。難しい表現もいくつかありますが、少しだけ背伸びして、その「わからなさのもどかしさ」を楽しんでもらいたいと思います。それがさらにその先を知りたいという哲学の探究心につながるはずですから。


先生に一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

インド。大学院の頃に、デリーとプーナに一年間留学しました。今はどうなっているんでしょう。


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