◆研究のきっかけは何ですか
自閉スペクトラム症の1つに、小脳の機能障害が起こるタイプがあります。アンジェルマン症候群の場合、重度の精神発達の遅れ、言語障害、てんかん、ぎくしゃくした歩行、ちょっとした刺激に対して笑いが誘発されるなどの症状を持ちます。私たちは、この病気の原因の解明に取り組みました。
◆研究の結果、何がわかりましたか
小脳は、運動機能と知覚を統合する働きをします。この病気は、運動を伝達する抑制性神経伝達物質が不足し、小脳で運動をコントロールすることが難しくなってしまいます。
あるタンパクは、小脳機能に重要な抑制性神経伝達物質・GABAを回収します。しかし、そのタンパクが分解されず過剰になることで、GABAを過剰に回収してしまいます。結果として、シナプス外でGABAが不足する。これらが、私たちの発見したことです。
◆どのように解決しましたか
神経細胞の外に漏れ出て作用するGABAを、ある薬で補うと症状が改善することを見出し、治療法の開発につなげることに成功しました。この研究成果は、世界的に大変注目を集めました。
反響の1つとして、精神疾患に関する米国の世界的な製薬会社が、この薬を製造販売すべく大規模な臨床試験を開始することになり、YahooやGoogleのニュースでも取り上げられました。これは、基礎研究の成果が治療法開発までつながった、数少ないケースです。
医学の研究なくして、sustainableに人々が健康に暮らせる社会がdevelopmentすることはあり得ません。そして、単に実用化を目標とする目先の研究ばかりではなく、現代を生きる人には役立てられなくても、未来の人には役立つかも知れない、純粋に好奇心と疑問を持つ心に根差した、挑戦的で基礎的な研究にこそ、投資をするべきだと思います。日本はこの点で道を誤りましたので、これから変わることを願っています。
抑制性神経伝達物質のGABAが、時として逆に興奮性として働くということを研究しています。私が30年前に留学していたスタンフォード大学の教授が、もととなるテーマをくれたのですが、当時は誰も信じない内容のうえに実験も難しく、数か月後に帰国予定だった私は、やんわりとはぐらかして別の研究をしていました。
しかし別の研究を進めていく中で、幼若な神経細胞では細胞内塩素イオン濃度が理論式通りであるのに、発達と共に理論値とずれた値を示すようになってくることを、不思議に思っていました。そんなある日のこと、ふと教授の言ったことを思い出し、それこそが私の疑問を説明できたのです。そして今では、私のライフワークとなっています。
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脳の視床下部は、ホルモンの分泌をコントロールするのですが、時に摂食障害、ストレスなどをもたらします。そこで、視床下部がストレス・摂食に対し、細胞内の塩素濃度をどのように保つかを研究しています。
◆主な業種
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
世界的に認められる研究をしてきたので、研究室を移ったり独立したりして研究テーマが変わったとしても、キャリア的には一歩二歩進んだところからスタートできたと思います。
脳の病気は色々なことが明らかになってきましたが、これらの病気の種が、実は脳の発達過程で既にできていること(DOHaD仮説)が明らかになりつつあります。これからますます研究が進み、色々なことが明らかになっていくと思います。
1.昔から「胎教」という言葉があるが、これを何か科学的なエビデンスで説明することはできるだろうか?
2.人類の住む環境が大きく変わりつつある。ヒトも環境適応して変わっていくのだろうか?もしそうなら、資料の残る過去の環境とヒトの客観的指標を現代のそれらと比較して、人類の進化の観点で何か言えるだろうか?
読んで効くタウリンのはなし
村上茂:監 国際タウリン研究会日本部会:編著(成山堂書店)
全く異なる領域の研究者が「タウリン」という共通項で集まり、それぞれの専門の観点からまとめた初の書籍。タウリンは栄養ドリンクの成分の一つとして知られるが、皮膚の水分保持、脂肪代謝、アルコール代謝や生活習慣病の予防的働きから胎児の脳の発達まで、実に多彩な働きを持つ。
総じて体の機能を正常に保つ働きがあると言えるが、まだまだ明かされていないことも多く、今後の解明が待たれている。そのタウリンについて研究分野を超えてをわかりやすく解説した書籍。
タウリンは主に魚介類に多く含まれており、それらの素材を使う和食文化が、日本人の健康長寿を支えてきた理由の一つなのかも知れない。
精神と物質 分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか
立花隆、利根川進(文春文庫)
ノーベル賞医学・生理学賞受賞の利根川進氏と「知の巨人」と称されるジャーナリスト立花隆との討論を通して、生命科学の当時の最先端の現状を分かり易く解説した。
20世紀後半の分子生物学の飛躍的な発展に貢献し、いずれは生命現象の全てが物質レベルで説明がつくと予言する利根川氏に、氏のノーベル賞論文の意義について、立花隆が20時間に及ぶ徹底インタビューを行った。
30年後に改めて読むと、予言の鋭さに驚かされ、また世紀の発見がどのように生まれたかが、臨場感を持って伝わる。研究に興味ある人にはぜひ読んでもらいたいし、これを読んで研究の世界に憧れる人もいるかもしれない。
Q1.一番聴いている音楽アーティストは? The Airborne Toxic Event、Lifehouse、Snow Patrol |
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Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? プロゴルフトーナメント大会の、急な登りホールでのキャディバッグ運び(選手とも会話) |
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Q3.研究以外で楽しいことは? ゴルフ、旅行、ワイン、スモーク作り |