応用分子細胞生物学

環境ストレス

植物を環境ストレスに強くする技術の開発


佐古香織先生

近畿大学 農学部 生物機能科学科

出会いの一冊

植物はなぜ薬を作るのか

斉藤和季(文春新書)

植物が生み出す化合物を私たちは薬として利用しています。植物は、なぜこれらの化合物を生合成するのでしょうか?それは植物は化合物を生産・利用することで、自分自身を環境の変化や害虫から守るためです。

本書には、植物が生合成する化合物の役割や、私たち人類がこれらの化合物をどのように利用しているかが、初めて学ぶ人にもわかりやすく書かれています。この一冊を通じて、植物が持つ素晴らしい生存戦略の一端に触れることができます。

こんな研究で世界を変えよう!

植物を環境ストレスに強くする技術の開発

異常気象が農作物に悪影響

植物は動くことができないため、暑さ、寒さ、乾燥、土の中の過剰な塩類など、環境からの様々なストレスにさらされています。

植物はこうした環境の変化に適応し、生きていく能力を備えています。しかし、近年の異常気象によって植物が適応できる範囲を超えた環境ストレスがかかり、その結果、農作物の収量や品質に悪影響が出ています。

みなさんも猛暑で野菜の価格が高騰したというニュースを耳にしたことがあるのではないでしょうか。私たちは、こうした環境ストレスに対して植物がどのように適応しているかを明らかにし、ストレスに対してより強くするための技術開発を目指して研究を行っています。

身近なエタノールが農薬に

これまでに、アルコール消毒に使われる身近な化合物である“エタノール”を植物へかけることによって、様々な種類の植物を高塩・高温・乾燥ストレスに対して強くできることを発見しました。

エタノールは安価で毒性が低いことから、農薬として利用することで、異常気象でも安定して作物を作ることができるようになると期待できます。

植物の100万種以上の化合物に注目

また、植物が作ることができる化合物は100万種を超えると考えられています。私たちは、植物が作り出す化合物のなかから、環境ストレスへの耐性を強化できる化合物がないかについても調べています。

こうした研究を通して、食料問題や環境問題改善に貢献していきたいと考えています。

タバコで目的のタンパク質を作らせるための実験。蛍光タンパク質を作らせて、核や細胞質などの細胞内のどこに存在するかを調べます。
タバコで目的のタンパク質を作らせるための実験。蛍光タンパク質を作らせて、核や細胞質などの細胞内のどこに存在するかを調べます。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

以前研究所時代にベトナム人留学生と別の実験をしていた時に、偶然エタノールを使って植物をストレスに強くできることを発見しました。

最初はエタノールのような身近な化合物で、本当にストレス耐性が強化できるのだろうかと半信半疑だったのですが、再現性を取るうちに本当であることがわかり、面白い研究テーマとなりました。

セレンディピティとはこういうことなのだなと思いました。日々の実験結果を大切に研究に取り組んでいくことの大切さを実感しました。

エタノールを処理したレタスと、無処理のレタス。高温ストレスにさらすと、エタノールを処理したレタスは生存することができますが、無処理のレタスは枯死してしまいます。
エタノールを処理したレタスと、無処理のレタス。高温ストレスにさらすと、エタノールを処理したレタスは生存することができますが、無処理のレタスは枯死してしまいます。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「エタノールによる耐塩性と疑似的な低酸素誘導メカニズムの解明」

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先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
植物育成室の様子。シロイヌナズナ、ベンサミアナタバコ、トマト等を育てています。
植物育成室の様子。シロイヌナズナ、ベンサミアナタバコ、トマト等を育てています。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 食品・食料品・飲料品

(2) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

◆主な職種

(1) 製造・施工

(2) 品質管理・評価

(3) 営業、営業企画、事業統括

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

生物機能科学科では、植物・動物・微生物といった生物から有機化学まで広く多様な分野を学び、研究することができます。

高校生の間に具体的にやりたいことを見つけるのは難しいと思います。当学科では入学後に勉強するなかで、自分のやりたいことを見つけることができるというメリットがあります。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

世界からバナナがなくなるまえに 食糧危機に立ち向かう科学者たち

ロブ・ダン、訳:高橋洋(青土社)

現在食べられているバナナと50年前に食べられていたバナナが違う品種であることはご存知でしょうか?これは病気によってかつて主流だったバナナの品種が栽培できなくなったことが原因です。

本書ではこうした現代農業の問題点と生物多様性の重要性について、面白いミステリー小説を読むような感覚で知ることができます。


愛なき世界

三浦しをん(中央公論新社)

多くの植物研究者が使っている”シロイヌナズナ”という植物を材料として研究している大学院生がヒロインの小説です。

東京大学の植物の研究室をモデルに書かれていて、大学で研究がどのように行われているか雰囲気を知ることができる一冊です。


Dr. STONE

Boichi、原作:稲垣理一郎(ジャンプコミックス)

科学の素晴らしさ・楽しさをここまで熱く、面白く表現できるとは?!と感嘆しました。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

生き物は面白いので、もう一度戻っても生物学を選ぶと思います。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

ベトナム。ベトナム人留学生と接する機会が多くあり、優しい人が多い印象のためです。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

大学の研究室で藻類のお世話をするアルバイト。海藻の再生能力の高さに驚きました。


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