ペットボトルで温めることが可能なものをよく見かけます。キャップがオレンジ色をしているのですぐにわかります。あのペットボトルの内壁には、ダイヤモンドライクカーボンという新しい薄膜が使われています。なぜそうするのかというと、ペットボトルだけの素材だと酸素を通しやすいからで、酸化防止のためにこの薄膜でコーティングしているのです。このような酸素を含めた気体ガスを遮断するすぐれた特性のあるダイヤモンドライクカーボンは、材料の表面にプラズマを放電することによって作られています。
従来、このダイヤモンドライクカーボンの成膜に用いるプラズマの生成には、高価な真空容器・ポンプを用いていました。私は大気圧下にて成膜できるような技術開発をしています。大気圧下のガスを用いたプラズマ発生の技術は、様々な分野で活躍しようとしています。プラズマと材料相互作用は幅広い分野で重要な役割を持っていますが、私の場合、金属材料表面へのヘリウムプラズマ照射で、繊維状の微小ナノ構造を形成することに取り組んでいます。今後大気圧プラズマを用いてもっと低コストで作ることができれば、触媒、太陽熱発電といった技術に応用できると期待されます。
未来の電気自動車、電動航空機を支えるプラズマ放電技術
地球環境にやさしい電気自動車は身近な存在となっています。さらに、飛行機を電動化する研究開発も行われています。重要な技術の一つにモータがありますが、モータを動かすための電圧を高くすることで、モータを小型化・軽量化することができます。標高の高いところで走る電気自動車や飛行機が飛ぶ高度では、空気が薄くなるため、地上よりも放電が発生しやすくなります。半導体製造などに使うプラズマ装置は気圧を下げて放電しやすくしているわけですが、モータで放電が発生することは防がなくてはいけません。このような基礎的な研究は産業界からも強いニーズがあります。
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「3.地球・宇宙・数学」の「10.素粒子、宇宙、プラズマ系物理」
一般的な傾向は?
●主な業種は→電機メーカ、電力会社
●主な職種は→開発、設計、研究
●業務の特徴は→ものづくりが多い
分野はどう活かされる?
プラズマを活用する技術があれば、その反対で抑制したいという分野もあり、電機メーカの電力機器(開閉装置やモータ等)開発の現場では長年注力されています。卒業生の多くは電機メーカにて、これまでのプラズマ研究の知識(測定器、データ解析方法等)を活かして活躍しています。
プラズマ科学は電気電子工学からエネルギー開発まで、幅広い分野で活用されています。私自身は新しいプラズマ源を開発し、新しい分野を開拓するとともに、新規材料開発や計測技術の開発を行っています。研究室では大学院に進学し、特に電機メーカ、電力会社に就職する学生が多く、社会で活躍しています。工学部電気系は社会からの需要も多く、就職状況は好調です。また、博士後期課程に進学し、博士号を持って社会に飛び立って行く学生もおります。プラズマ科学を学ぶことで、将来どの分野の仕事をするのにも基礎的な知識、学力を身につけることができると信じております。
プラズマ科学は半導体製造装置や核融合エネルギーにおけるプラズマ生成・制御に関する基礎を扱う学問です。また、電気工学を始めとする産業界とも深い関係があります。プラズマや放電を何に適用して、持続可能な社会を実現するのか、皆さんの新しいアイデアをお待ちしています。
プラズマ・核融合学会主催の高校生シンポジウムに向けた、プラズマ実習を2019年に行いました。その様子は、学会誌に掲載されていますので、参考にしてください。
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2020_01/jspf2020_01-33.pdf
カラー図解 プラズマエネルギーのすべて
プラズマ・核融合学会:編(日本実業出版社)
将来のエネルギー源としてプラズマエネルギーが期待されている。プラズマエネルギーはプラズマ科学を結集させた技術であり、プラズマ科学はその根幹となる学問だ。この本はプラズマ科学のこれまでの研究の経緯が図や写真をもとにわかりやすく解説。例えばプラズマは容易に高エネルギーが得られる特徴を持っているが、核融合反応を発生させるには1億度まで高める必要がある。このような高温プラズマを生成するためのアイデアが示されている。プラズマ科学は高校物理で勉強する電磁気学が基礎になっているが、そうした物理学的な基礎の上に、世界中の研究者は新しい技術開発に奮闘し、実用化をめざして着実に進展していることをわかってほしい。
パワーアカデミーホームページ
(パワーアカデミー事務局)
電気工学に関する基礎的な事柄や研究者、学べる大学、企業で活躍する人たちを紹介するために、中高校生向けに作られたサイト。「研究者コラム」というページでは、例えば兵庫県立大学の菊池祐介准教授が、電気工学における博士人材のあり方や今後の育成について自身の経験を基にしながら紹介し、次世代発電技術として期待される核融合エネルギー研究開発について語っている。
[Webサイト]