宗教学

死生学

病院での「死者へのケア」と日本人の死生観を探究


山本佳世子先生

天理大学 人文学部

出会いの一冊

死ぬのは、こわい?

徳永進(理論社よりみちパン!セ)

「死ぬ」ってどういうことだろう。人間が抱える、本質的な問いの一つではないでしょうか。本書は、終末期ケアを提供する診療所の医師と中学生の対話という形をとりながら、この問いに向き合うものです。子どもの死、小さい子どものいるお母さんの死、50代や60代の人の死、認知症を抱えた高齢者の死。

さまざまな人の生き様、死に様、そしてそのご家族の姿を、親しみ深い語り口で提示することで、「死」という一見重たいテーマについて、優しく考えることを促してくれます。

こんな研究で世界を変えよう!

病院での「死者へのケア」と日本人の死生観を探究

「どう生き、どう死ぬか」を考える学問

私の専門は、「死生学」です。聞き慣れないかと思いますが、簡単にいうと「どう生き、どう死ぬか」を考える学問です。

病や死といった人生の危機において、「私の人生どんな意味があったのか」「どうして私がこんな目に遭わなければならないのか」「死んだらどうなるのか」といった実存的な問いに、患者さんや大切な人を喪ったご遺族は直面することがあります。

病院という場を中心に、こうした問いに向き合う方々をいかに支えることができるかを検討すると同時に、生老病死の問題に向き合う中で立ち現れてくる現代日本人の死生観を探究しています。

多死社会を迎える日本の課題

今行っている研究では、病院での「死者へのケア」に注目しています。

今日、伝統的な葬送儀礼は急速に簡素化される傾向にあります。そうした中で、私たちは死者をいかに遇することができるか。

多死社会を迎える現代日本社会において、大きな課題の一つです。病院は基本的には「生者」をケアの対象としていますが、多くの人が病院で亡くなる中、病院での「死者へのケア」を検討することの意義は大きいと考えています。

病院に勤務する宗教者への聞き取り

「死後の処置(エンゼルケア)」を行う看護師さんと、病院に勤務する宗教者にインタビューを行っています。「病院に宗教者?」と思われるかもしれません。

宗教的背景のある病院には、布教伝道はせずに、上に挙げたような実存的問いを抱える患者さんのこころのケアを担当する宗教者がいることがあり、彼らは病院での「死者へのケア」の重要な一端を担っています。

「無宗教」を自認することの多い日本人が求める「死者へのケア」と、現代日本人の死生観や宗教性の一端を示すことができたらと考えています。

調査に伺ったキリスト教系病院(栄光病院)のチャペルです。
患者さんが亡くなられた後、ここでご葬儀を行うこともあります。
調査に伺ったキリスト教系病院(栄光病院)のチャペルです。
患者さんが亡くなられた後、ここでご葬儀を行うこともあります。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

歴史が好きで、歴史を学びたくて大学に入学したのに、専攻を選ぶときに、日本倫理思想史のコースに進んでしまいました。現代社会における倫理について考えようと大学院に進学したところ、死生学に出会い、修士・博士論文のテーマは「生と死の教育」になりました。

大学院生の頃、病院で活動する宗教者たちに出会い、一緒に研究会などを開くようになり、それが現在の研究テーマにつながっています。高校生の頃には想像もしていなかった分野で、縁の不思議を感じます。

調査に伺った宗教者が活動するクリニック(沼口医院)では、患者さんが亡くなられた後、宗教者が主導して「お別れ会」が行われます。
調査に伺った宗教者が活動するクリニック(沼口医院)では、患者さんが亡くなられた後、宗教者が主導して「お別れ会」が行われます。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「病院は死者をいかに遇することができるか:医療現場での『無宗教』者への死者へのケア」

詳しくはこちら

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もっと先生の研究・研究室を見てみよう
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

私は医療学部で一般教養の科目を担当しています。

「死生学」は宗教学だけでなく、哲学、倫理学、社会学、社会福祉学、医学、看護学、文学、芸術など、多様な分野にまたがる領域です。死に日常的に触れることになる看護師や臨床検査技師を志す学生さんが、死生学を学ぶ機会となっています。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

闇は光の母(死をめぐる絵本シリーズ)

谷川俊太郎 他(岩崎書店)

多くの人は、普段、「生と死」について深く考えることなく過ごしているかと思います。でも「死」について考えることは、限りある「生」をより深く、豊かなものにしてくれます。

私は大学の授業の中で、よく絵本を紹介したり、音読したりしていて、このシリーズも、そのうちの一つです。絵本は短い言葉と絵で、生きることの本質を問いかけてきます。このシリーズは、さまざまな視点から死について考えさせてくれるものです。(※画像はシリーズ3.「ぼく」)


今、この身で生きる

大河内大博(ワニブックス)

病院で活動する宗教者とはどのような人たちでしょうか?病院で宗教者は何をしているのでしょうか?この本は、著者の経験を通じて、その一端を知ることができるものです。


おくりびと

監督:滝田洋二郎

「死者へのケア」を通じて、遺された遺族のケアがなされます。第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した本作は、「死者へのケア」の大切さ、豊かさを描いた名作です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

やはり、宗教学、死生学でしょうか。間違いなく、面白いですから。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

森山直太朗さん。「生きてることが辛いなら」がコンビニで流れてきた時の衝撃は忘れません。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

塾の講師をしていました。「時給が良かった」ことが1番の理由です。バイトしてお金貯めて、ひたすら海外旅行に使いました。モンゴル、ネパール、タイ・・・。世界が広がりました。

Q4.好きな言葉は?

和而不同(和して同ぜず)。「協調することは大事だが、同調はしない」という意味で、論語の一節です。


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