物性II

電気磁気効果

室温でフェライト材料に電気磁気効果を実現、新しい機能を持つ電子機器の開発に貢献する


木村剛先生

東京大学 工学部 物理工学科(新領域創成科学研究科 物質系専攻)

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実験装置


◆どのように研究を着想しましたか

理科の実験で、金属中に電気を流すと磁場が発生し、逆に磁力を加えると電流が流れます。このような現象を電気磁気効果と言います。この効果を利用すると様々な新しい電子機器を作ることができます。

しかし困った点は、これまでの金属材料では、室温よりはるかに低い温度でしかこの効果は現れないということでした。私は室温で電気磁気効果を出すことを目指し、この研究を始めました。誰もやったことのない取り組みでした。

◆どのように困難を克服しましたか

室温で電気磁気効果を出す材料を探すうちに、フェライト磁石という鉄を主成分とする金属材料を見つけました。これに、室温でしかも弱い磁場に電気を流すと、大きな電気磁気効果を示すということを明らかにしました。この成果によって、室温で動作する電気磁気効果が実現されたのです。

◆その研究が進むと何が良いのでしょうか

電気磁気効果は、古くは19世紀末のフランスの科学者ピエール・キューリーの提案に始まり、1960年代から1970年代にかけていくつかの先駆的な研究が行われました。

今よりもっと電気磁気効果を利用できれば、室温で電場または磁場をコントロールできるようになります。それによって、電気を流したり絶縁体になったりを切り替えるスイッチなど、様々な新しい機能を持った電子機器への応用が期待されます。

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国際会議での一コマ

学生はどんな研究を?

「磁場と磁化」「電場と電気分極」「応力と歪み」の関係に履歴現象(一方の状態が同じであるにも関わらず、加速時と減速時などといった履歴の相違により、数値が異なる現象)を生じる物質は、強磁性体、強誘電体、強弾性体とそれぞれ呼ばれています。

その履歴特性により、外部からの作用や応答に左右されにくいことから、エネルギー消費の少ない情報保持が実現できます。これらの物質は機能性材料として電子デバイスなどに広く用いられ、現代社会を支える基盤となっています。

これらの性質を持つ物質は、ひとまとめに「フェロイクス」と総称されています。さらに、単一の物質中で複数のフェロイックな性質を持つ物質は「マルチフェロイクス」と名付けられ、近年、その研究は急速に進展してきました。

本研究室では、従来のフェロイクスおよびマルチフェロイクスの範疇を超えた、新しいタイプの機能性物質の開発を行っています。そして、複数の構造・電子秩序状態の結合に起因する、新規な電子物性・機能の実現を目指しています。

学生はどんなところに就職?

◆主な業種

・電機、機械、化学をはじめとするメーカー

・国内外の大学等教育研究機関

◆主な職種

・技術者、研究者、大学教員

◆学んだことはどう生きる? 

本研究室では、主に物性物理学を学びます。物性物理学とは、物理学を基礎に「物質中のミクロな原子の世界」と「マクロな性質や現象」との関連を明らかにし、モノの性質(物性)を理解し、これまでにない可能性を実現する学問分野です。

私達が日常的に使っているPC、通信などの技術に用いられているデバイスの多くは、物質中の電子のふるまいを「物性物理学」的に研究することにより開発されています。すなわち、将来の技術の種を育て、独創的・創造的な科学技術の源泉となるのが、物性物理学と言えます。

先生からひとこと

「物性物理」という言葉は、中高生では聞き慣れない言葉かも知れません。ですが、例えば銅はよく電気を流すけれども、プラスチックはほとんど電気を流さないとか、鉄は磁石にくっつくけれども、アルミニウムは磁石にくっつかないなど…我々の周りにある様々な物質が、なぜそのような電気的・磁気的、さらには熱的な性質を持つのかといったことを調べ、分かったことを基にして新しい電子材料を創成するなど、こうしたことを目指すのも物性物理の研究です。

パソコン、通信、マルチメディアなどの技術に用いられている大容量ハードディスク、液晶ディスプレイ、半導体メモリ、レーザーなどは「物性物理」を基礎にした研究から生まれています。

中高生におすすめ

石ノ森章太郎の超電導講座

石ノ森章太郎(講談社)

漫画家、石ノ森章太郎作画による超電導リニアの開発物語。金属を極低温に冷却すると電気抵抗がゼロになり、夢のモーターとして実用化が期待される超電導。研究者たちは奮闘し、世界中で先陣争いが過熱する。1986年頃における、新規超伝導体探索の世界的な競争に関する記載が、人間味も含めて克明に説明されており、当時の熱い雰囲気が良く伝わる本である。


世界の技術を支配する ベル研究所の興亡

ジョン・ガートナー:著 土方奈美:訳(文藝春秋)

アメリカのベル・システム社によって設立されたベル研究所は、1920年の設立以来、トランジスタの発明、ガラスや磁性物質の電子構造の解明、宇宙マイクロ波背景放射の発見などで、7組13人ものノーベル賞受賞者を輩出した。

他にもベル研究所の功績は、電波天文学の始まりとなる銀河系からの電波の検出、世界初の実用的な太陽電池開発、C言語の開発など枚挙に暇がない。本書は、このような現代のエレクトロニクス産業に欠かせない発明を次々と世に送り出した、ベル研究所に関する読み物である。


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