現代の「宗教」という概念は、まず西洋近代社会で形成され、やがて他の地域の現象や、前近代社会の現象にも適用されるようになりました。そのため、西洋的な宗教概念と日本的な宗教概念には大きな違いがあります。そこで、各地の多様な宗教がどのような思想や文化、政治との関わりから影響を受け、発展していったのかを研究し、複数形の多様な「宗教」を理解しようとしています。
日本の宗教を知ることで、世界の諸宗教を考える手がかりに
例えば、都市やその近郊でフィールドワークをすることによって、現代日本における様々な宗教の展開について理解を深めることができます。また、現代の日本における「神道」をはじめとした宗教概念が、政治との関わりの中でどのように形成されていったのかを研究しています。こうした研究は、西洋的な宗教概念を中心に叙述されてきた世界の諸宗教の歴史を、どう叙述し直すかという問題を考える上でも、手がかりを与えてくれます。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→教育、宗教職
- ●主な職種は→高校・大学教員、学芸員、聖職者
分野はどう活かされる?
特定の宗教を信仰している人でも、他の宗教の考え方から学んだり、また日本や世界の宗教の最新の動向を学んだりすることで、視野を広げることができます。信仰とは無縁の人でも、年中行事や通過儀礼などについて関心を深めることができます。
日本では、宗教はそれほど重要なテーマではないかもしれませんが、国際化、グローバル化の中で宗教的な常識を身につけることは必要不可欠です。また、高齢化の進展や、自然災害の続発、感染症による大量死などは、人間の死について考えることを促しています。高校生にとっても、人間の死に方を考えることは、ご自分の生き方を考える際に、深みを与えてくれるものでしょう。
興味がわいたら~先生おすすめ本
聖なる天蓋―神聖世界の社会学
ピーター・L・バーガー
バーガーは著名な社会学者ですが、現代プロテスタント神学にも造詣が深く、宗教や信仰にかかわる著作も著しています。本書は、1967年に原著が刊行された、現代宗教社会学の中の必読の基本文献と言えるでしょう。宇宙の中における人間の位置づけから構想される宗教の原理論と、近代社会における宗教の役割の縮小(世俗化)等の歴史理論とを包含する、一般理論が提示されています。日常的秩序世界(ノモス)とそれを脅かす混沌(カオス)、カオスを克服しノモスを安定させる宇宙的秩序(コスモス)といった用語の絡み合いが、原著刊行から50年以上経った今日でも、刺激的に感じられます。 (薗田稔:訳/ちくま学芸文庫)
世界文明史の試み―神話と舞踊 上・下
山崎正和
受験生にとってもなじみ深いであろう、評論家・劇作家、山崎正和氏の近年の大著です。「する」と「ある」の二つの身体論から始まり、進化人類学にも触れつつ、宗教史と藝能史を包括しながら展開されるグローバル文明史です。この文明史の試みは、哲学も科学も射程に入れた壮大なもので、およそ人文学が課題とする主題がなんであれ、ほぼ必ずどこかで触れられていて、多様な主題への考察のヒントがちりばめられた、重厚な参考文献になっています。もっとも、山崎氏の重視してきた「社交」の意義は、フィジカル・ディスタンスの時代には新たな問い直しを迫られつつあり、それは現代を生きる誰にとっても課題となることでしょう。 (中公文庫)