現代の医療・健康・福祉の発展には、科学技術の役割が極めて大きくなっています。そこで「医工連携」、つまり医療の現状を理解する工学技術者と、技術に強く期待を寄せる医療従事者が密に連携して、新しい医療技術を創り出していくことが、今、広く社会から求められています。
その中で私は画像技術を専門とする工学者として、コンピュータを用いた外科手術のナビゲーションや、画像診断の支援、医療従事者の教育やトレーニング、そして画像を用いた非接触生体計測に関する様々な医療システムや機器の開発を行っています。
拡張現実感技術を用いた外科手術ナビゲーション
近年急速に普及が進む内視鏡外科手術は患者にとって痛みが少ないことや入院期間が短縮できるなどメリットが多いのですが、医師にとってはカメラ映像を手がかりに、専用の細長い医療器具を操作して全ての外科処置を行う必要があり、とても難しい手術です。そこで、私たちは内視鏡外科手術をより安全でより医師の負担を減らして実施できるよう、拡張現実感技術を用いたシステムを提案しました。
技術のポイントはプロジェクションマッピングといって、患者の体内の情報(立体構造)をプロジェクターで患者の身体に映像投影します。従来の内視鏡外科手術ではモニタを見ながら手術をしなければならないの対し、プロジェクションマッピングを行うことで、あたかも患者の体内が透けているかのように観察することができ、病変部位やその周辺の構造などを直感的に把握することができます。
さらに患者の体内へ、患者を傷つけることなく多数のカメラを挿入できるようにするため、小型カメラを組み込んだ新しい医療機器を開発しました。これにより、内視鏡外科手術における患者の体内状況を広範囲かつ正確に観察できるようになり、手術の安全性向上や高精度化が期待できます。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→医療機器メーカー
- ●主な職種は→技術開発
分野はどう活かされる?
医療機器開発に必要な技術の知識やスキルを身につけられることはもちろんながら、大学の研究では実際に様々な医療機関(病院の医師・看護師)や企業との共同研究プロジェクト体制で実施しますので、大学生の皆さんは在籍中、自分の研究を多くの人と議論しながら進めることになります。こうして得られた「連携力」が就職した後も活かされています。
私が専門とする領域では数学と物理、そして英語がとても重要です。ぜひ高校生のうちからこれらの科目をよく勉強して欲しいと思います。
ただし授業の成績だけよくても世の中を変えるような革新的な仕事ができるとは限りません。普段から幅広く関心を持って情報を収集し、また人と議論することが重要です。議論といっても高度な討論会で鍛えようと言ってるわけではありません。一人で考えるのではなく、自分のアイデアを人に披露して意見を聞くことや、他人の考えをよく聞き理解して自分なりの意見が言えれば十分です。
千葉大学の工学部には、医工連携を集中して学べる「医工学コース」があります。医工学コースでは情報工学・電気工学・機械工学を幅広く学んで、医療現場に発生する多様な課題に柔軟に対応できる能力を身につけます。さらに医工学コースには医師免許を持った教員も専任で所属していますので、医療現場の現状と課題を直接医師から教わることができます。