様々な人間活動で環境中に放出された化学物質は、ときに、生物や生態系への重大な影響をもたらします。その中に、「環境ホルモン」と呼ばれるものがあります。内分泌系に影響を及ぼし、生体に障害や有害な影響を引き起こす有害物質=内分泌かく乱化学物質です。
人間の体には、様々なホルモンがあります。例えば、成長を司る成長ホルモン、神経を伝達するホルモン、男性・女性の機能をもたらす性ホルモンなどです。しかし、人工的に作られ環境中に放出された化学物質の中には、生物の体に入り、ホルモンのような作用を及ぼしたり、あるいはホルモンの作用を阻害したりする化学物質があるのです。それが、「環境ホルモン」と言われるゆえんです。
こうした、化学物質がどのように蔓延しているのか、どのような生物への影響があるのかをきちっと調べる必要があります。その方法の一つとして、生物を指標(バイオマーカー)とした毒性評価法があります。メダカやミジンコなど、基礎研究で広く使われており、生物学的に理解の進んでいる試験生物を用いるのです。
水環境中には化学物質が蔓延
私は、化学物質の性ホルモン作用(内分泌かく乱作用)に関する研究を行っています。特に、水環境中には、個体の生死に直接かかわらなくとも、繁殖力の低下をはじめ、種々の生理機能の抑制に繋がる化学物質が蔓延しています。それを簡便にかつ高精度で調べるために、メダカのような試験生物を用いて毒性の蓄積度合を確かめる、性ホルモン作用検出法の開発に取り組んでいます。
このような性ホルモンの影響を評価する環境毒性研究は、プラスチックの海洋汚染など一向に環境問題が解決しない中で、重要度を増す一方です。また、この研究は、生物の多様性や絶滅危惧種の保全といった分野にも密接につながります。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→学術研究、技術サービス、医療
- ●主な職種は→環境アセスメント、環境分析、研究開発、MR(医薬情報担当者)など
分野はどう活かされる?
環境分析、企業での研究職、製薬会社のMRなどで、生理学的知識や分析技術・知識を生かしています。
大学への進学に際して、「どの学部を選択するか」は重要な問題です。高校生の段階で、大学進学を含めた「将来ビジョン」を明確にするのはかなり難しいことです。私自身は元々、「水産増殖学」を学びたいと高校生の時に思うようになり、大学では魚類生理学、魚類内分泌学を学び、現在はその知識・技術を生かして、魚類などの試験生物を用いた環境毒性学を研究しています。つまり、大学進学の際に選択した学部、その後の大学院で学んだことが、現在の仕事(研究内容)に大きく関連しています。
ホームページなどで多くの大学情報を短時間で得られることができますが、それらに加えて、オープンキャンパス等に参加し、さらに興味のある先生方の研究室を見せてもらうことも可能です。実際に大学に「触れる」こともとても大事です。このような「積極的な行動」を通して、自身の学問的興味が明確化していきますので、皆さんも積極的な行動を取って、進学の意図を明確にし、受験勉強に励んでほしいと願っています。高く、明確なモチベーションがあれば、きっと良い結果をもたらすと思います。
長崎大学環境科学部は、文理融合の視点で環境問題について学ぶことができる、全国でも数少ない学部です。私は環境毒性学について教育・研究に携わっていますが、理系ではその他、保全生物学、大気環境学など幅広い自然科学に関する環境問題について学ぶことができます。また、文理融合学部の特徴を生かし、環境政策や環境法など、文系の学問分野に関する素養を身につけることができるため、環境問題を考える上で必須である「多角的な視野」を涵養することができる点が大きなメリットです。