都市計画・建築計画

「空き家の使い方」の使い方研究、ストック活用で何を起こすか


徳尾野徹 先生

大阪市立大学 工学部 建築学科/工学研究科 都市系専攻

どんなことを研究していますか?

最近、空き家が増えているという話題を耳にしませんか。空き家の活用は、私の専門分野である「建築計画」の中で、最近のトレンドのテーマとなっています。

私は、人口減少の縮減化社会における開かれた建築ストック活用のあり方を探求しています。具体的には、空き家や空きビルなどのストック活用や、建築計画や設計への利用者の参加が、特に追及しているテーマです。ストック活用といっても、単に空いている空間を使うことが目的ではありません。「ストックを活用することで何が起こるか?」「何を起こすか?」です。人と人とのつながりを生み(完成後だけでなく設計段階や特に、DIY工事が重要!)、その結果として地域やコミュニティの活性化につながるような活用を目指します。そのためには利用者の参加が重要です。計画や設計の途中段階で利用者団体の意見を聴取するといった相変わらずのトップダウン型ではありません。利用者の自律的・個別的な意見を下から積み上げていくボトムアップ型の参加が建築を、地域を、変えるのです。

こうしたことを通じて、建物を壊しては作る「スクラップ・アンド・ビルド」の時代から脱却し、街中にある既存ストックや既存コミュニティを再編・活性化させながら、多様で多彩な住まい方や働き方が実現できる建築や地域づくりを目指します。つまり、空き家などの建築ストックを資源とみなした、「空き家の使い方」の使い方研究ということができます。

木造建築・林産地にも注目

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日本の林業振興、地球環境問題などへの対応から、2010年に公共建築物等木材利用促進法が制定され、国策として中大規模木造建築(学校・役所・ビルなど)の建設が推進されるようになりました。それに対して大阪市立大学工学部建築学科では、木造建築に関する講義を立ち上げ、3年生の夏休みに2泊3日で林産地(奈良県十津川村や岡山県真庭市など)において林業実習を実施しています。自分たちが使う木材がどこで、誰が、どのように生産しているかを学ぶためです。

このような活動が縁となって、建築学科だけでなく、生活科学部の居住環境や社会福祉、文学部の地理学の先生方と共同で、2019年秋より紀伊半島林産地の地域づくりに取り組み始めました。具体的な成果はこれからです。乞うご期待。

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奈良県十津川村での林業実習

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→建設業、建築設計業、建築行政、住宅産業、不動産業、鉄道業、製造業、大工
  • ●主な職種は→建築設計、施工管理、公務員、都市開発、住宅開発、製品開発など
分野はどう活かされる?

建築の設計や施工の業務で、この分野を活かすことができます。最近は、都市開発などプロジェクトの上流を志向する卒業生が増える一方で、伝統的技術を受け継ぐ宮大工や設計から施工までをこなすリノベーション大工になる卒業生も出てきています。

先生から、ひとこと

建築計画分野の学生は、他の工学部の学生のように実験室や研究室に籠っていることは少ないです。研究方法はフィールド(現場)第一です。

例えば、住まいが研究対象なら、実際のお宅に出向き、間取りや家具などの配置を調べ、住み手に家族構成やどのように住んでいるのかを聞き取ります。調査研究の結果に客観性を持たせるためには数(カズ)が勝負となるため、何件もまわります。そして、収集したデータを整理・分析し、そこから住まいが抱える問題や課題を見つける一方で、住み手の住意識や新たな住まい方を発見します。

人口減少や産業構造の転換など世の中の動きが激しい現在は、発見することが非常に多く、刺激に満ちています。このようにして得た新たな知見や計画理論を実際の建築設計に活かしていくのです。

先生の学部・学科はどんなとこ

大阪市立大学工学部建築学科の教育方針は「総合建築教育」です。計画系・構造系・環境系の各分野、エンジニアリングからデザインまでを、理論(講義)と実践(設計演習等)を通して総合的に教育します。ほとんどの大学の建築学科の卒業検定は、卒業論文か卒業設計のどちらかを選択となっていますが、大阪市立大学工学部建築学科では、両方とも必要と判断し、ともに必修科目としています。

人口減少期の日本の成熟社会では、新築だけでなくストック活用や利用者参加の仕事が増えています。ですから、建築家や建築技術者には、既存建築を空間的・構造的・環境工学的に評価する能力や、利用者の隠れたニーズや思いをくみ取った上で実体化させる能力も求められます。「建築」を取り巻く状況が大きく変わる時代だからこそ、狭い範囲の専門知識だけではなく、建築を総合的に理解しておく重要性が増しているのです。

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滋賀県近江八幡市の小学校にて、トイレの改修をテーマに、ワークショップを開催しました。

先生の研究に挑戦しよう

学校の空き教室、活用されていない空間のリノベーションを提案してみませんか。利用者参加のワークショップを開き、隠れたニーズを掘り起こしたり、課題や可能性を客観的に抽出したりして、実際に図面・スケッチ・模型を作成し、校長先生にプレゼンしてみても面白いでしょう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

驚嘆!セルフビルド建築 沢田マンションの冒険

加賀谷哲朗

建築家である著者が、大学院の建築計画研究室に所属していた当時に執筆した修士論文がベース。研究対象の沢田マンションは、家主の沢田夫妻の住まい観・技術観に基づいてセルフビルドで建設された6階建ての賃貸マンションで、日本版サグラダファミリアとも称される。しかし、実はキワノモではなく先進・先鋭的なマンションであることを、学生の新鮮かつ知的好奇心に満ちた視点でアプローチし、丹念な調査と分析により明らかにしている。常識と思われている北側廊下・南側リビングでプライバシー重視の3LDKマンションのプランニングへの疑問も浮かぶ。著者の指導教授であった初見学先生の愛のある解説も見もの。 (ちくま文庫)


アメリカ大都市の死と生

ジェイン・ジェイコブス

『都市の本質とは、お互いに知らない人々が集まって、過度に干渉せずに関係を築けるということだ。その関係が、街路という公共的な場所を核として発達する。そしてその街路の公共性を保つのは、そこに張りつく多様な商業経済活動と、それが生み出す「ついでの」活動だ。・・・用途規制や巨大開発などを通じた土地利用の純粋化は、そうしたついでの活動を殺し、街路を殺し、結果として都市を殺してしまう。目に見える単調さやつまらなさは、その結果でしかない!』 世界中の都市計画家や建築家が、この本にやられてる! (山形浩生:訳/鹿島出版会)


集落の教え100

原広司

空間の読み方が学べる一冊。京都駅やサッポロドームの設計者でもある著者は、20数年にわたって世界の集落を実測調査してきた。本書では世界の100の集落から教えられた空間デザインに関することを、100の簡潔なエッセイと集落の写真で紹介している。自然発生的にできたと思われる集落も、実はヒト・モノ・コト+風土の関係性の結晶であることがわかる。 (彰国社)


ゼロからトースターを作ってみた結果

トーマス・トウェイツ

原材料から全て作ることは可能なのか。鉱山で手に入れた鉄鉱石と銅から鉄と銅線を作り、じゃがいものでんぷんからプラスチックを作る。集めた部品を組み立てる。大学院生であった著者が修了制作で、量販店で売っているような単なるトースターを作ってみた、といった単純な話だが、現在の消費社会の矛盾を浮き彫りにしている。視点をちょっとずらすことで常識の裏側の矛盾が見えてくる。 (村井理子:訳/新潮文庫)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/総合科学技術・イノベーション会議の調査事業の一環としても、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。
各先生の所属など、掲載されている大学(学部・学科ほか)の名称は、2020年1月段階の調べによります。実際の進路選択等に際しては、各大学のHP等で改めてご確認ください。

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