私たちの体を構成する細胞の遺伝子は、DNAの2本鎖が繋がった構造でできています。これは生命の基本的な設計図になっています。DNAは様々な内的・外的な要因で絶えず損傷を受けていますが、なかでも最も深刻な脅威となる損傷が、DNAの2本鎖切断です。DNA2本鎖切断は放射線被ばくなどによって誘発され、細胞死や遺伝子変異の原因になります。生物はこの損傷を修復するシステムを持っており、元通りに修復されれば影響はありません。
放射線影響学は、放射線が生物にどのような影響を与えるのかを研究します。その中で、DNAの損傷から修復に至る一連のメカニズムの解明は、最近注目の研究テーマです。
新生児期被ばくにおけるDNA2本鎖切断の機構を解明する
最近、私たちは、マウスを用いた動物実験で、放射線を被ばくして6週間経た後に神経細胞発生の元になる神経幹細胞にDNA2本鎖切断が新しく生じることを明らかにしました。この被ばく後遅れて生じるDNA2本鎖切断の数は、新生児期に被ばくした場合が、胎児期や成熟期に被ばくする場合に比べ、一番多いことがわかりました。新生児期被ばくは、放射線による発がんを調べると一番感受性が高い(おこりやすい、影響を受けやすい)ことがこれまでにわかっています。このことから、私たちは、新生児期被ばくにおいてDNA2本鎖切断の感受性が高くなる理由を明らかにすることは、発がんの原因を明らかにする一歩になると考えています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→医薬品製造業、食品製造業、放射線関連業務、教育・研究関連業務
- ●主な職種は→医薬品メーカーや食品メーカーの研究職・品質管理職・営業職、放射線関連業界の研究職・営業職、高等学校や大学の教員
- ●業務の特徴は→医薬品や食品に関する研究・開発、あるいは放射線の安全管理に係る業務、教育・研究に係る業務
分野はどう活かされる?
新しい医薬品の開発研究、放射線影響学に関する研究で活かされています。
放射線によるDNA損傷の修復機構に関する研究の進展には、日本の研究者が大きく貢献しています。あなたも仲間入りしませんか。
大阪府立大学は、理学系研究科生物科学専攻に「放射線生物学研究室」があり、放射線による生物影響を分子・細胞・個体レベルで研究しています。また、工学研究科には、「量子放射線専攻」があり、大型γ線照射施設や直線加速装置等を利用した放射線物理学の研究を行っています。この放射線施設は、西日本の大学ではトップレベルの規模です。
興味がわいたら~先生おすすめ本
放射線医が語る被ばくと発がんの真実
中川恵一
東京電力福島第一原発事故により、環境に飛散した放射性物質。これによる被災地域住民への健康影響について、放射線科医の著者が解説。最初に、放射線が生き物に対してどのように作用するのか、特にDNA損傷について解説し、細胞はDNA損傷修復機能を持っていることを説明していく。後半では、放射線によるDNA損傷と発がんリスクとの関係の捉え方について解説している。著者は、放射線影響学でこれまでに得られた知見から、福島では放射線被ばくが原因で生じるがんは増えないだろうと予見している。放射線による健康影響を正しく理解するための入門書として推奨する。 (ベストセラーズ)