代数学は、高校数学でも「整数の性質」、「数式の計算」、「2次・高次方程式」などで習いますが、易しいように見えて、未解決問題も数多くある分野です。例えば、数学者を悩ましてきた整数の性質問題に「双子素数」の謎があります。素数とは、正の約数が1と自分自身以外に約数を持たない数のことで、2、3、5、7、11、13…と続きます。双子素数とは、この中で3と5のように、差が2である2つの素数の組のことを言います。このような組が無限個存在するかどうかが、大きな謎です。「隣り合う素数の差が246以下であるような素数の組が無限に存在する」ことが示されたと発表され、大きな話題になりました。やがて双子素数の謎に決着をつけるのでないかと期待されています。
1と自分自身以外に約数を持たない数である「素数」を理解すれば、2や3や7の倍数を避けるように分布していることがわかるはずです。素数の分布は不規則で、人類はいまだにその様子を理解したとは言えない状況です。身近なところでも、1÷素数(2,5以外)という循環小数の循環節の桁数を調べてみると、規則性が見られないことに気づくでしょう。これも素数分布の複雑さが循環節の桁数に影響しているためと考えられます。
さらにこれはRSA暗号などと類似した構造を持つ素因数分解の研究に関係します。RSA暗号は、ケタ数が大きい合成数を素数に分解するのが困難であることを安全性の根拠としています。そのため、素数の謎に挑むことは、コンピュータセキュリティのための暗号の性能評価などに寄与できる可能性があります。
代数学で音楽理論 ?
こちらは趣味の一つでもありますが、昔から音楽が大好きでピアノを続けており、作曲にも興味があります。音楽の中でもその理論的な面は数学との相性が良く、数学で説明できる現象もあります。例えばド、ソ、レ、ラ、ミ、シ、ファ♯、 … と一定間隔(やや専門的ですが「完全5度」という間隔で、半音7個分です)で音を上げていくとどうなるでしょうか。
これはショパンのプレリュードの曲配列とも関係しますが、この配列ですべての音が現れること(オクターブ差の音は同じとみなします)は、代数学の知識でうまく説明できるのです。他にも和音進行を数学で記述する研究などもあるようです。実は数学と音楽理論の関連を論じた専門書は海外では多数出版されています。こうした方向が今後どのように発展するのか、興味を持っています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→教育(中学校、高等学校)
分野はどう活かされる?
数学教育に携わることは、大学で学んだことをまさに最も直接的に活かす仕事です。特に、数学の面白さを伝えることを忘れないように伝えており、実際そのような形で学んだことを活かしてくれていると考えています。
基礎科学でありながら「究極の実学」とも称される数学は、そのものの面白さももちろんですが、まさに無限の広がりをもって、いろいろな学問に応用されています。数学は「面白いものは必ず役に立つ」ということを実証している学問であるとも言えます。ぜひ、面白いことを自分で見つける、という気持ちで取り組んで下さい。
興味がわいたら~先生おすすめ本
パソコンで開く数の不思議世界
飯高茂
循環小数とは、ある桁から先で同じ数字の列が無限に繰り返される小数のことだ。例えば、1/7=0.142857142857…が延々と繰り返される。この循環する「142857」を2倍、3倍…、6倍してみたり、あるいは2分割した数を足してみたり(142+857)、3分割して14+28+57を計算してみると不思議なことが起こる。この本では、そこを理解するためにパソコンを使って謎解きをする。つまり、7を分母とする循環小数を例に、その面白い性質から説き起こし、簡単なプログラミング、初等整数論の話題を紹介し、最後に循環小数のややくわしい理論を論じている。これらは代数学の基礎になる整数論を学ぶ上での入口になるという。 (岩波ジュニア新書)
ゼロから無限へ 数論の世界を訪ねて
コンスタンス・レイド
インド人が発明したゼロから、1、2とつづき、無限の話まで、整数の面白い性質を語っている。整数論とは代数学の1分野で、数、特に整数およびそれから派生する数の体系の性質について研究する数学の一分野。数論とも言う。数学、天文学、物理学などで業績を上げたガウスは次のような言葉を残している。「数学は科学の王女であり、数論は数学の王女である」。永らく実用性はないと言われてきたが、2進法はコンピュータの世界で見事に開花、近年計算機上での応用が発達しつつある。整数論という分野を知るのに大変良い本。 (芹沢正三:訳/ブルーバックス)
音律と音階の科学 ドレミ…はどのようにして生まれたか
小方厚
日本でも、音楽と数学そして科学との関連に注目した書籍は各種出版されている。歴史的に見ても、ピタゴラス、デカルト、メルセンヌ、ダランベール、オイラーなど、多くの数学者が音楽理論に関わっている。こうした側面への入門として、まず本書はいかがだろうか。他にも、西原稔、安生健『数字と科学から読む音楽』、西田紘子、安川智子編『ハーモニー探求の歴史 思想としての和声理論』なども興味深い。音楽と数学など無関係と思っていたあなたも、逆に好きな音楽と数学を結び付けたいと考えているあなたも、こういった書物に目を向けてみてはどうだろうか。 (ブルーバックス)